●令和2年度鳴門市黒崎幼稚園活動内容
 
 ≪研究主題≫
 
 金銭教育に係る体験活動を通し,
          お金や物を大切にする幼児を育む。
 ※園の概要や園児の実態等については、令和元年度分の活動内容をご覧ください。
 Ⅰ 令和2年度の取り組み
 
 昨年度の反省から,園だけでの取り組みではなく,家庭や地域とも連携を図りながら取り組みを進めていくことも必要であると感じ,今年度に入り,保護者に金銭教育についてのアンケートを実施した。その中で,『金銭教育は必要であると思うか』という質問に対して,ほとんどの保護者が『必要である。』と答えた。『どのような金銭教育が必要だと思うか』という質問に対しては,以下のような意見が出てきた。
 

 
 
 
 
 物がなくなった時に子どもが「また買ったらいいで。」と言うのが気になり,物を買うにはお金が必要であること,お金はパパやママが頑張って仕事をしてもらっていることを伝えた。まずは自分の持ち物や身の回りの物を大切にすること,物へ対する思いやりを身に付けてほしい。また,実際お金を使う体験ができたらいいと思う。限られたお金を何に使いたいか考えて,必要な物を必要な分だけ買う,また,満足な使い方も経験してほしい。


 
 
 お金は働いて得るものだということを教えていきたい。何もせずにもらえるものではなく,働いた対価としてもらっていること。“欲しいものにお金を払う→お金は使うとなくなってしまう→お金がないと欲しいものは買えない”ということも教えて,本当に必要な物をよく考えて買うことの大切さを教えてほしい。

 
 どうしてお金や物を大切にしなければならないか,どのようにしてお金や物を得ることができるのか,そのために何をしなければいけないのか,など,具体的に分かりやすく教えてほしい。

 
 自分たちの労働により,お金を稼ぐことができ,そのお金でバス乗車体験や買い物体験等ができるというお金の流れを知ってほしい。

 
 昨年度に引き続き,物を大切に扱うことを教えてほしい。(まだ使える物は使おうという気持ちが芽生えてきているので)
   保護者の意見から,家庭でもお金や物の大切さを伝えようとしてくださっているが,十分伝えることができていないことが分かった。また,子どもが次から次へと物をほしがり,物を大切にできていない様子から,自分の身の回りの物を大切にすることや,お金は限られているものであり,大切にしなければいけないことを伝えていきたいと考えていることが分かった。そこで,幼稚園と家庭が連携をしながら,金銭教育を進めていくことが必要だと思った。“人や物・お金の大切さを知る”“働くことの大切さを知る”“地域や保護者への啓発”の3つを視点に置き,昨年度に続いて,夏野菜の販売体験やバス乗車体験,買い物体験に加え,今年度は,地域の方によるものづくり教室やクリーンセンターの見学等を計画した。詳しい計画は以下の表の通りである。
令和2年度 活動計画
活 動 内 容 実 施 時 期
栽培活動から販売活動への取り組み
幼児期の金銭教育について保護者アンケート

 
環境教育・リサイクルに関する紙芝居や絵本を通して身近な環境やリサイクルについて話し合う。
地域の方によるものづくり教室※

 
こども秋祭りの開催
 
金銭教育講演会※
クリーンセンター見学※
 園外保育(バス乗車体験・買い物体験)※
5月~10月
6月
6月
 
7月
10月
 →12月に変更
10月
11月
12月
※新型コロナ感染者拡大防止の為中止
 
1 人や物・お金の大切さを知る
 
(1)【紙芝居・視聴覚教材を通して】
 今年度,教師による読み聞かせの中に,エコに関する絵本や紙芝居を取り入れてきた。『もったいないばあさん』や『しょうじき50えんぶん』『ちょっとまって,ドンキチくん』などの絵本や紙芝居を読み,クラスで物や資源を大切にすることについての話し合いの機会をつくってきた。製作活動の中で,色紙をクシャクシャにして捨ててあったり,ガムテープやセロハンテープを必要以上に使ったりしている姿が見られ,教師が言葉だけで伝えるのではなく,エコに関する絵本や紙芝居を読み聞かせすることで,幼児にとっては分かりやすく,また自分のこととして捉えられることができた。
 友達同士で『もったいないばあさんカルタ』をし,「水の出しっぱなしはいかんよなぁ。プールもできんようになるし。」「ごはん粒も全部食べてピカピカにできたらいいよなぁ。」という言葉が聞かれ,楽しく遊びながら物や資源の大切さを学ぶことができた。カルタ遊びがきっかけとなり,生活のあらゆる面で「これ,まだ使えるのに捨てとる。もったいない。」「もったいないばあさんが来るよ!」という言葉も聞かれるようになった。また,新しく購入した絵本を絵本の部屋に並べておくと,絵本貸出の日に借りて帰る幼児がいて,保護者の方と一緒に絵本を見る機会もあった。絵本貸出カードのコメント欄には,「親子で物やお金の大切さについて話し合うことができたので,よかった。」「親の私もお金を大切にして,貯金をしていきたい。」という感想があり,幼稚園だけでなく,家庭でも物を大切にすることやお金を大切にすることについて話し合うことができた。
反 省 と 考 察
 幼児たちと一緒に,エコに関する紙芝居や物を大切にする内容の絵本を見たりすることによって,幼児たちが身の回りの物や資源を大切にしようとする気持ちを育むことができるのではないかと思った。絵本や紙芝居などの視聴覚教材は,幼児たちにとって分かりやすいものだと感じた。今後も,幼児たちの大好きな絵本や紙芝居を通し,お金や物を大切にする機会を保育の中に取り入れ,幼児自身が,お金や身の回りの物の大切さについて興味や関心をもって考えていけるようにしていきたいと考える。
 また,幼稚園だけでなく,家庭に物やお金を大切にする内容の絵本を持ち帰ることで,保護者の方も一緒に考えるよい機会となった。
幼児が物やお金を大切にする気持ちを育むためには,幼稚園と家庭が連携して取り組んでいくことが大切だと改めて感じた。
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(2)【お店屋さんごっこを通して(年少児)】  令和2年12月18日(金)
 例年,7月に行われている夏祭り・バザーが新型コロナウイルス感染症拡大防止のために中止となった。しかし,幼児たちに楽しい経験をさせてあげたいという思いで,“わくわく夏祭り”を開催し,職員がお店屋さんになってくじ引きや射的,お宝すくいを楽しんだ。その経験から,今度は自分たちがお店屋さんになり,お客さんを招待したりお客さんになったりするなど,幼児同士でお店屋さんごっこができるように計画をした。その話を幼児たちにすると,「お店屋さん,やりたい!」「僕はポテトを売りたい。」「私はハンバーガー!」などとお店屋さんをすることに意欲的であった。食べ物を作って売りたいという声が多かったので,“ももぐみレストラン”を開くことになった。「どうしたらお客さんが喜んでくれるかな?」「お客さんが『おいしそう!食べたいなぁ。』と思ってくれるような料理を作らないといけないね。」と幼児たちに話し,お客さんに食べてもらうことや喜んでもらうことなどお店屋さんとして相手のことを意識しながら作ることができるようにかかわった。
 料理を製作する際には,普段の遊びの中で使っている画用紙やダンボール,お花紙,毛糸など,幼児にとって身近な素材で料理を作ることができるようにした。オレンジ色の毛糸を丸いダンボールの上に載せて“ナポリタン”を作ったり,ゼリーのカップをクラフト紙で巻いて“たこ焼き”を作ったりした。幼児が様々な素材の中から自分がイメージした物をのびのびと作ることができるように,幼児が真剣に考えながら作っている姿や幼児の作っている物を認めたり,困っている幼児には「緑の画用紙を切ってピーマンにしてみたら?」「セロハンテープでなくてのりでくっつけてみると,おいしそうに見えるかもね。」などと教師もアイデアを提供したり,思ったことや感じたことを伝えたりしながら一緒に進めてきた。
 当日は,自分たちが作った料理を机の上に並べ,お客さんに「これがおすすめですよ。」「クッキーは3枚で100円ですよ。」「どのジュースがいいですか?」などと,お店屋さんの人になりきってお店屋さんごっこを楽しんだ。年長児のお店屋さんもあったので,お客さんに来てもらいたいのにお客さんが来てくれないこともあり,「どうしたらお客さんが来てくれるんだろう?」と言う幼児もいた。教師が「看板を持って,『ももぐみレストラン,開いていますよ~』って言いに行く?」と提案すると,「うん!それ,いいね!」と早速年長児の部屋へお客さんを呼び込みに行った。呼び込みに行ったことで,お客さんが増え,お店屋さんになっていた幼児たちは「いらっしゃいませ~」とより一層はりきっていた。自分たちが作った料理をお盆に載せてうれしそうに運ぶ姿から,自分たちが作った物を大切にしようとする気持ちが見られた。
反 省 と 考 察
 “ももぐみレストラン”を開くにあたって,“物の大切さを理解してほしい”という思いから,幼児たちにとって身近な素材で料理を作ることを提案した。普段使っている素材にひと手間加えたりアレンジしたりすることで,売り物として売ることができるのではないかと考えた。製作が好きな幼児がたくさんいるので,自分のイメージした物を形にしていく楽しさを味わうことができた。また,料理を作る際には,「どうしたらお客さんが喜んでくれるかな?」「お客さんが『おいしそう!食べたいなぁ。』と思ってくれるような料理を作らないといけないね。」とお客さんに食べてもらうことや喜んでもらうことなどお店屋さんとして相手のことを意識しながら作ることができるようにした。お客さんのことを考えながら動くことは,普段の生活の中でも,自分のことだけでなく,相手のことも考えられることにつながっていくのではないかと考えている。
 お店屋さんごっこ当日,徳島県金融広報アドバイザーの美保みどり先生にお店屋さんごっこの様子を見ていただいた。各保育室でお店屋さんを開いたため,他のお店屋さんの様子が分かりにくく,全体の幼児の姿を把握することが難しかった。リズム室で全部のお店を開くと,幼児にとっても職員にとっても全体の動きが見えやすかったのではないかと反省した。また,お店屋さんとお客さんの交代の時間が分かりにくかったこと,看板が見えづらかったことも反省点として挙げられる。私たち職員はお店屋さんごっこに向けての準備で精一杯になってしまっていて,当日の幼児の動きを十分予想できていなかったことも反省した。幼児の動きをしっかりと予想できていれば,また違ったお店屋さんごっこになったのかもしれない。
 研究討議の中で,美保先生からチケットではなく,お金を使ったお店屋さんごっこがよかったこと,それぞれの発達段階に応じたお店屋さんであったこと,お店屋さんになりきるための衣装があったら幼児たちももっとはりきったのではないか,最後に幼児の「楽しかった。」という声が聞けたので大成功だったのではないかなどと感想をいただいた。また,園の実態に合わせた金銭教育を進めていくことの大切さをご指導いただいた。今回学んだことを日々の保育の中で実践していきたい。そして,次回は今回の反省点を踏まえたお店屋さんごっこを計画し,実施したいと考えている。
 
2 働くことの大切さを知る
 
(1)【お米の大切さを伝えていく】  令和2年6月3日(水)
 同じ机で給食を食べている年少児のユイと年長児のコウタロウ。ユイが給食を食べ終え,食器を片付けに行こうとするとコウタロウが,「あ,ちょっと待って。お米の粒が残っとるよ。もったいないけん食べとき。」とユイに言う。確かにお茶碗には数粒の米粒が残っていた。ユイは少し不思議そうな顔になりながらもそっと座って残っている米粒を食べ始めた。「僕たちな,もも組の時にお米作ったんよ。めっちゃ大変でな,なのにちょっとしかとれんかったんよ。やけんお米は大事に食べなあかんのよ。お米屋さんきっと大変やもん。」と話すコウタロウ。その話を聞きながらユイの顔は少しずつ明るくなり,「お米ってどうやって作るん?」とコウタロウに聞き始めた。お米や稲の話をしながら楽しそうに給食を食べる二人のお茶碗には一粒の米粒も残っていなかった。
反 省 と 考 察
 今年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のために,給食を食べる際には幼児同士の間隔を空けて座るように配慮が必要であった。しかし,保育室では十分なスペースが確保できないため,広いリズム室で年少児と年長児が集まって食べることとした。年少児と年長児が一緒に給食を食べることは例年ではほとんどなかったが,一緒に給食を食べる中で,このような思ってもみなかった姿が見られた。
 昨年度の稲作体験で田植えをし,大切に育てた稲から米を収穫することを経験した年長児たちは,米が食べられるようになるまでの一連の流れを見てきた。5月頃に田植えをして収穫は10月頃と,米がとれるまでには時間がかかることや収穫した稲穂の脱穀や精米などいろいろな工程があってさらに時間や手間がかかることなど,自分たちが食べられるようになるまでが大変なことをよく知っている。だからこそ米やご飯が大切で貴重なものであると考えるようになっている。
 今年度は稲作体験を行っていなかったが,年長児から伝えられたことで年少児も疑似体験をし,働くことの大切さまでは分からなくとも,米の大切さやそれをいつも食べられていることのありがたさを感じとったのではないだろうか。このような価値観や実体験の伝承が金銭教育においては貴重であり,重要な要素であると感じた。
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(2)【夏野菜の栽培活動,販売活動を通して~無人販売作ろう!~】
<5月 夏野菜の苗植え>
 植物の栽培を通して,生命を尊く思う心やいろいろな食べ物に興味をもって進んで食べようとする意欲,そして,一つ一つの食べ物を大切に食べようとする姿勢などを育むことをねらいに,夏野菜の苗植えをすることを幼児に提案した。年長児からは「昨年もしたなあ!トマトとかピーマンとか植えたよなあ!」「今年は何植えるん?」と積極的な声が多く聞かれ,昨年度からの学びのつながりが感じられた。年少児は初めてではあるが,野菜の栽培に興味をもって意欲的に取り組もうとする様子が見られた。今年度は,ミニトマト,ピーマン,ナス,オクラ,キュウリ,トウモロコシ,パプリカを栽培することとした。ミニトマトは年少児,年長児ともに個人用の植木鉢に植え,自分で責任もって育て,その他の野菜は畑やプランターに植えてみんなで大切に育てることにした。
 一人一人の幼児が苗をそっと自分の植木鉢やプランター,畑に植えていく。初めは,自分たちがスーパーや家庭で見ている実の部分のイメージが強いため,「これがほんまにピーマン?」「これって何?」と不思議そうに見つめる姿があった。なかには,「葉っぱがなんか違うなあ。」「これが何の苗だった?」と苗の葉っぱや大きさなどの違いに気付き,興味をもつ幼児もいた。植えた後は優しく水やりをしたが,まだ苗が成長してどうなっていくのかのイメージがもてず,不思議そうな様子だった。
<5月〜 水やり・野菜の世話>
 苗植えをしてから毎朝,野菜に水やりをしていった。初めは「早く大きくなってほしい。」「まだ大きくならないのかなあ?」という期待に溢れ,意欲的に水やりや苗の周りに生える草を抜いたりしていた。少しずつ苗が生長し,葉っぱが大きくなってくると「僕の大きくなってきた!」「私のトマト大きいよ!」と喜ぶ姿が見られるようになった。
 画用紙や油性マジック,クレヨンなどを使って野菜ごとに看板を作り,プランターや畑に設置した。「これ私のピーマン!」「僕が植えたナスも大きくなってきとう!」などと言って自分たちが植えた野菜に一層愛着をもって関わり,世話や手入れなどをしようとするようになった。
 花が咲き,小さな実がつき始めると,さらに幼児たちの野菜に対する興味や関心は強くなり,「先生!お花が咲いとる!」「小さい実がついとるよ!」と喜び表現していた。この頃には野菜が育って実っていくイメージが少しずつでき始め,収穫への期待が徐々に高まっていた。
<6月〜 収穫>
 毎日水やりをしながら「(実が)大きくなっとるよ!もうとれるかなあ?」と収穫を楽しみに野菜の様子を細かく観察する幼児たち。「全部が赤くなったらもう取ってもいいよー!という合図よ。」「これぐらいになったらもう取れそうやね!」などと収穫の目安を教師が知らせると,ますます野菜の変化に注目するようになる。
 いよいよ収穫。赤く色づいたミニトマトやツヤがあり大きくなったピーマンやナスなどをハサミで収穫していく。「おいしそうー!」「これも取れる?」と喜びに溢れた言葉が飛び交う。今年度は新型コロナウイルス感染症対策のために,園で食べることはできず,家庭に持ち帰ることとした。収穫した次の日には,「お野菜,美味しかったよ!」「もっと食べたい!」とさらに収穫を楽しみにする姿が見られ,「ピーマン嫌いやけど食べれたよ!」と苦手な野菜にも挑戦することができたことを話す幼児もいた。
<7月~ 無人販売へ>
 たくさんの野菜が毎日収穫できるようになってくると,年長児が中心に「お家の人とかお客さんにもお野菜を食べてもらいたい。」という意見が出始めた。昨年度,夏祭りで保護者の方や地域の方に収穫した野菜を販売したことを思い出し,「お野菜屋さん作ろうよ!」ということになった。しかし,新型コロナウイルス感染症対策のために,夏祭りは中止となり,対面での販売も難しいことを伝え,「誰もいない道にお野菜だけ置いてあるところがあるよ。」という経験も聞き,相談した結果,無人販売所を作ることになった。そのことを年少児にも伝え,みんなで“やおやさん”を運営することとなった。各々スーパーで野菜の値段を調べてきたり,どんな風にして販売するかを相談したりしながら,収穫したいろいろな野菜を袋詰めにして,1袋100円で販売することにした。1つの袋にどれぐらいの野菜を入れて100円とするかについては非常に悩み,決めるまでに時間を要したが,無事に決めることができた。お店の看板や飾りつけなどは年長児が作った。どこに設置するのかをさらに相談し,「お客さんもお家の人もいっぱい来る玄関にしたらいいんちゃん?」という意見から,玄関ホールに設置することにした。
 年長・年少の各クラスで収穫した野菜を一緒に袋詰めし,いよいよ“やおやさん”をオープンする。降園時間からオープンということにしたため,一時預かり事業を利用している幼児がお迎えの保護者の方が来るたびにチラチラと玄関ホールを気にして,野菜を買ってもらえると“ガッツポーズ”をして喜ぶような姿も見られた。 また,次の日の朝,登園してきてお金入れにお金が入っているかを確認して「あ,お金入っとるよ!」と喜ぶ姿もあった。時には,思うように野菜が収穫できず,野菜をお店に並べることができないこともあり,「野菜屋さんって大変なんやなあ・・・」「毎日お世話もせなあかんし,僕たちしたいこともあるけど,お野菜のお世話もあるし・・・」などと農家の方の苦労を感じとっているような言葉が聞かれることもあった。
 また,無人販売所で野菜を購入した保護者の方からは「ピーマンが甘くて美味しい。」「新鮮で美味しい。」「毎日,今日はどんな野菜が売られているのか楽しみにお迎えに来ています。」などの声をいただき,自分たちが手がけたもので周りの人に喜んでもらうことができ,幼児たちも嬉しそうな様子であった。“売り手と買い手が喜びでつながる”そのような労働の意味や喜びについても感じることができたのではないだろうか。なかには,「最近,スーパーの野菜が高いから困っているんです。幼稚園の野菜はたくさん入って100円なのでとってもありがたいです。安くて助かります。」と袋をいくつも買ってくださる方もおり,新型コロナウイルス感染症の影響で野菜の値段が高騰していたことから,“少しでも安くて良いものを買う”というお金を大切に使う工夫についても知ることができた。
反 省 と 考 察
 野菜の栽培から販売までの一連の流れを幼児たちが体験することで,日常で食べていた野菜に多くの人が関わって自分たちの元に届いているということを知ることができた。また,農家の方の苦労や難しさを実感したことで,“大切に食べなければ”という気持ちになっていたようである。また,お金を得るということの難しさや大変さを味わい,お金の大切さを幼児が理解することができたと考える。さらに,いろいろな人の苦労や頑張りに対して対価としてお金を支払うことの大切さについても考えることができたのではないだろうか。幼児たちにとって非常に得難く貴重な経験をすることができたと考える。今後は,夏野菜の販売で得た収益金での買い物体験を計画している。自分たちが手がけたものを通して得たお金を使って買い物をすることで,お金の流れや労働の意味などについて幼児なりに感じとってほしいと考えている。
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(3)【お店屋さんごっこを通して(年長児)】  令和2年12月18日(金)
 新型コロナウイルス感染症対策により,今年度は鳴門市全体で夏祭りを中止にすることとなった。本園では,幼児たちに少しでも楽しい活動をさせてあげたいという思いから,職員がお店を開いて“わくわく夏祭り”を開催した。その経験からか,秋の終わり頃になって年長児たちから,「自分たちでもお店をやってみたい!」という声が聞かれた。そこで,年少組とも話し合い,幼児が企画して自分たちの考えたお店屋さんごっこを園全体で行うこととした。お金は幼稚園銀行が発行した画用紙の100円玉で,自作の財布に入れるお金は一人800円ずつとした。
 年長児は3つのグループに分かれ,きんぎょすくい,ガチャガチャ,くじびきの3つのお店を作ることとし,年少児はクラス全体でレストランを作ることにした。年長児は,店ごとのチームに分かれてどんなお店にするかを話し合った。幼児たちの口からは常に「お客さんが面白くて嬉しくなるように。」という言葉が聞かれ,自分たちが楽しむことはもちろんのことだが,自分たち以上に“お客さんが楽しいこと”を考えて作ろうとしていた。どんなものを景品にするかを考えていく中でも,「お客さんがもらって嬉しいものを作りたい。」という思いが強かった。プラバンやアイロンビーズのキーホルダー,手作りクレヨン,指編みのマフラーなど年長児たちの工夫と思いがいっぱいに詰まった景品がたくさんできあがった。景品の数も,「もらえんかったら辛いけん,みんなの分を作っとこう。」と園児全員がもらえる数を毎日コツコツと作っていった。その中で,「めっちゃ大変じゃ。」「あと何個作ったらいいん?」と弱気になることもあったが,「こっち手伝うわ!」「これと一回交代する?」と友達同士で励まし合い,協力し合う姿が見られた。
 待ちに待ったお店屋さんごっこ当日。ワクワクした様子の年長児たちはオープンの時間まで,「いっぱいお客さんが来たら困るけん,こっちで案内する人もいるよ!」「私はこっちでやり方説明するけん,お金もらう人お願いな!」とお客さんへの対応のシミュレーションをしていた。お店がオープンする時間になると,「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!」と元気よく声を出していたり,「ありがとうございました!」と丁寧に挨拶をしたりしていた。中には,思いもよらなかったアクシデントもあり,戸惑う姿も見られたが,幼児たちなりに一生懸命に対応しようとしていた。どのお店の幼児たちも店員になりきって一生懸命に働く姿が見られた。
 お店を閉店し,クラスで活動の振り返りをすると,「あー疲れた。」「もう大変だったなあ。」「景品作るのも忙しかったしなあ。」「働くってほんまにしんどいなあ。」と床に全員が倒れ込んだ。しかしすぐに,「でもいっぱい来てくれてよかったなあ。」「ガチャガチャばっかり来てくれた子もおったよ!」「きんぎょすくいでお金半分も使いよったよ!」など喜びの言葉もたくさん聞かれた。
それぞれのお店からお金入れの箱を持ち寄って,「こんなにいっぱい売れた!」「僕たちもこんなにいっぱいあるよ!」とたくさん集まったお金を見ながら,「頑張ってよかったなあ。」とつぶやく幼児たちの喜びに満ちた笑顔が見られた。
反 省 と 考 察
 今回の活動では,全員が店員とお客さんの両方を経験できるようにと考えた結果,年長児と年少児がそれぞれにお店を作って,店員になる人とお客さんになる人を時間で割り振るという形をとった。
 年長児は,“働くことの意味を感じ取ってほしい”という願いから,企画や準備,お店のやりくりなどを幼児たち自身で考えて取り組めるように進めていった。お店屋さんごっこ当日までは,自分たちなりにチームの壁を越えてアイデアを出し合い,工夫を凝らして準備を進めてきた。自分たちもお客さんになることは分かっているので,自分がほしい物を作るとばかり考えていたが,幼児たちの考えは違っていた。“お客さんが楽しいこと”“お客さんが喜ぶもの”それが幼児たちの思いの中心になっていた。準備や景品作りも忙しく,毎日「ふぅー。」と息を吐きながら一生懸命に取り組み続けた。しかし,誰一人途中でやめてしまったり,嫌がったりする姿はなかった。今思うと,大変でも来てくれるであろうお客さんのために準備や景品を作ることが幼児たちのやりたいことになっていたのだろう。
 お店屋さんごっこ当日には,予想以上にたくさんのお客さんが来てくれて忙しかったり,対応に追われたりもしてさらに大変なこともあっただろう。それが,幼児たちの「あー疲れた。」や「働くってほんまにしんどいなあ。」という言葉に表れている。それ以上に満足感や充実感を味わっていたことも「頑張ってよかったなあ。」というつぶやきに表れている。
 “働く”ということは本当に大変なことであるが,幼児たちがそれを感じ取ることは非常に難しく,むしろ感じることは日常ではないことかもしれない。それを今回の一連の活動で幼児たちは感じることができ,貴重な体験となった。働くことの大変さや意味を感じ取ることで,お金の大切さをより深く学ぶことにつながっていくだろう。今回,一番大きな学びであったのは,働くことの大変さからお金の大切さを学んだこと以上に,働くことの意味として,“誰かに喜んでもらうために働くことの喜び”を感じられたことであったともいえるのかもしれない。
3 地域や保護者への啓発
  
(1)【お家の人への感謝を込めて(ハーバリウムボールペン作り)】 令和3年3月15日(月)
 夏野菜の販売で得た収益金での買い物体験を計画し,自分たちが手がけたものを通して得たお金を使って買い物をすることで,お金の流れや労働の意味などについて幼児なりに感じとってほしいと考えていたが,新型コロナウイルス感染症拡大防止のため,買い物体験やバス乗車体験も中止にせざるを得なくなった。そこで,夏野菜の販売で得た収益金をどのように使うかを幼児たちと相談したところ,「いつもお世話になっている家族に何かプレゼントしたい」という意見がたくさん上がった。どのような物をプレゼントしようかと考えた結果,完全に既成の物ではなく,少しでも幼児たちの手が加えられるものとしてハ―バリウムボールペンを作ることとした。ハ―バリウムボールペン本体やドライフラワー,ビーズなどの材料を収益金で購入し,自分たちで作成したペンを家族にプレゼントすることにした。
 前日に,「みんなで相談したことやけど,いよいよ明日,家族にプレゼントするペンを作るよ。この材料はみんなで夏野菜を売った時のお金で買ってきました。できあがったらこんな感じになるけんな。」と教師が完成品の見本を見せながら幼児たちに説明をした。「ママの好きな色って何色だろ?こっそり聞いてみよう。」「パパはお仕事でいっぱいペン使うけんパパにあげるペンにしよう!」などとプレゼントする家族のことを思いながら話す幼児たち。
 次の日の朝,登園してきた幼児から身の回りの始末を済ませて作り始める。「あ,これママが好きって言よった色っぽいなあ。」「これとこれは入れたいなあ。」とプレゼントをする相手を思い,材料を吟味しながら作業を進めていく。ドライフラワーでいっぱいにする幼児,ビーズなども入れてカラフルにする幼児など,その子なりの工夫や相手を思う気持ちがいっぱいに詰まったハーバリウムボールペンができあがった。メッセージカードと一緒にラッピングし,持ち帰った。
 翌日,「昨日ペン渡したよ!『いつもありがとう』も言うたよ!」「ママ,『ありがとう』って泣いとった!」とうれしそうに話す幼児たちの姿に温かさを感じた。
反 省 と 考 察
 自分たちが頑張って夏野菜を販売して得たお金を自分のためでなく,“家族のために使いたい”という幼児たちの気持ちには正直言って驚いた。お店屋さんごっこで働くことの大変さや意味を感じ取ったことから,家族への感謝の気持ちも強くなってきていたのかもしれない。金銭教育に関わる様々な活動を通して得た知識や,感じたものがしっかりとつながって幼児の姿に変容をもたらしているのだと考えた。このことを保護者にも感じてもらいたい,伝えたいという思いも強くなった。
 保護者にはペンに加えて,文書でもペンをつくることになった経緯や,どんな思いで幼児たちと作ったのかなどを伝えた。金銭教育として,主に物やお金を大切にする態度や意識を育てていくことを考え,保護者にも伝えてきたが,物やお金を大切にすることが,それらの周りを取り巻くたくさんの人への感謝や尊敬の気持ちをもつことにつながっていく。このような大きな育ちがあるということを保護者に知らせていくことができたのではないかと思う。
 
 Ⅱ 研究の成果と課題園の概要と園児の実態
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 2年間の取り組みの中で,幼児たちは,夏野菜の販売体験や稲作体験,お店屋さんごっこなどを通して,自分たちが実際に体験してみることで,お店屋さんや農家の方の気持ちを感じ取り,働くことの大変さを実感するとともに,自分が働いた後に得られるお金に対しても貴重なものだということが理解できてきた。そのことが,生活の様々な面で幼児たちの姿に現れるようになってきた。自分の作った物に名前を書いて大事にしたり,製作物が落ちていると「これは誰のですか?」と聞いて持ち主を探したり,空き箱やペットボトル,カップなどの素材を分かりやすく分別して使いやすくしたり,マジックのふたを忘れずに閉めたりするなど,自分の身の回りにある物を大切にしようとする気持ちが見られるようになってきた。自分の身の回りにある物を大切にすることがお金を大切にすることにつながっていくということにも少しずつ理解できてきたようにも思う。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 取り組み2年目となる今年度は,昨年度の研究の実践や反省を踏まえ,保護者や地域の方にも協力をいただきながら,取り組みを進めていこうと考えていた。しかし,新型コロナウイルス感染症の影響で,夏祭り・バザーや保育参観日などの行事が中止となり,保護者や地域の人と関わる機会がなくなり,当初予定していた活動ができなくなっていった。この状況の中で園内でできること,幼児の生活や実態に寄り添った金銭教育を職員間で考え,幼児にとって身近なことから取り組んできた。その中で,「恐竜作りたいけん,牛乳パック,持って来たよ。」と幼児が自ら目的をもって,製作に使う空き箱や牛乳パックを家庭から持って来たり,「この紙はまだ使えるなぁ。」と画用紙の切れ端を捨てずに置いたりする幼児の姿が見られるようになってきた。また,給食時には,昨年度の稲作体験よりお米を育てる大変さを感じた年長児が「ごはん粒,残さず食べなよ。もったいないけんな。」と年少児に教える姿が見られ,年少児もお椀についたごはん粒を最後まで丁寧にとって食べるようになってきた。毎日の園生活の中で,「それもったいないよなぁ。大事にしよう。」という言葉も聞かれるようになり,少しずつ幼児の言動の中に物を大切にしようとする気持ちが育ってきているように感じる。これからも日々の生活を通して,物やお金を大切にしようとする心が育っていくように実践を積み重ねていきたい。

 
 
 
 
 
 
 
 幼児たちは,お店屋さんごっこや保護者へのボールペン作りを通して,お客さんや保護者のことを考えて作る経験をした。その中で,“お客さんはどんな物があったら喜んでくれるかな”“お家の人は何が好きかな”と相手のことを想いながら作ることで,“誰かを喜ばせたい”という気持ちが伝わってきた。自分が一生懸命働くことでお金を得ることができ,そのお金を自分のためだけでなく,誰かのために使いたいということは“働くことの意欲”にもつながるのではないかと思った。また,一生懸命働いてお金を得る,働いて得たお金を何に使うか真剣に考えて欲しいものを買う,買ったものを大切にする,この流れを理解することで,お金や物を大切にしようとしたり,自分のために一生懸命働いてくれている保護者に感謝をしたりできるのはないかと考える。

 Ⅲ おわりに
    2年間,金銭教育に取り組んできたが,2年目となる今年度は,新型コロナウイルス感染症の影響で,計画していたことが十分できずに反省している。しかし,園内でできることに重点をおきながら取り組んできた。また,この状況の中だからこそ感じることもたくさんあった。
 近年,物があふれ,何でもが簡単に手に入る世の中で,普段の生活が“当たり前”と思っていたが,コロナ禍で“当たり前”だと思っていたことがそうではなく,社会の中で様々な人たちがそれぞれの役割を担っているから成立していることに気付かされた。今後も,幼稚園と家庭・地域が連携しながら取り組む中で,身近な大人がいろいろな物や事を提供してくれる方々に感謝を忘れないなど,よきモデルとなって示していき,幼児期における金銭教育の土台を培っていきたいと考える。
    
    
  
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