(2)【夏野菜の栽培活動,販売活動を通して~無人販売作ろう!~】 |
<5月 夏野菜の苗植え>
植物の栽培を通して,生命を尊く思う心やいろいろな食べ物に興味をもって進んで食べようとする意欲,そして,一つ一つの食べ物を大切に食べようとする姿勢などを育むことをねらいに,夏野菜の苗植えをすることを幼児に提案した。年長児からは「昨年もしたなあ!トマトとかピーマンとか植えたよなあ!」「今年は何植えるん?」と積極的な声が多く聞かれ,昨年度からの学びのつながりが感じられた。年少児は初めてではあるが,野菜の栽培に興味をもって意欲的に取り組もうとする様子が見られた。今年度は,ミニトマト,ピーマン,ナス,オクラ,キュウリ,トウモロコシ,パプリカを栽培することとした。ミニトマトは年少児,年長児ともに個人用の植木鉢に植え,自分で責任もって育て,その他の野菜は畑やプランターに植えてみんなで大切に育てることにした。
一人一人の幼児が苗をそっと自分の植木鉢やプランター,畑に植えていく。初めは,自分たちがスーパーや家庭で見ている実の部分のイメージが強いため,「これがほんまにピーマン?」「これって何?」と不思議そうに見つめる姿があった。なかには,「葉っぱがなんか違うなあ。」「これが何の苗だった?」と苗の葉っぱや大きさなどの違いに気付き,興味をもつ幼児もいた。植えた後は優しく水やりをしたが,まだ苗が成長してどうなっていくのかのイメージがもてず,不思議そうな様子だった。 |
<5月〜 水やり・野菜の世話>
苗植えをしてから毎朝,野菜に水やりをしていった。初めは「早く大きくなってほしい。」「まだ大きくならないのかなあ?」という期待に溢れ,意欲的に水やりや苗の周りに生える草を抜いたりしていた。少しずつ苗が生長し,葉っぱが大きくなってくると「僕の大きくなってきた!」「私のトマト大きいよ!」と喜ぶ姿が見られるようになった。
画用紙や油性マジック,クレヨンなどを使って野菜ごとに看板を作り,プランターや畑に設置した。「これ私のピーマン!」「僕が植えたナスも大きくなってきとう!」などと言って自分たちが植えた野菜に一層愛着をもって関わり,世話や手入れなどをしようとするようになった。
花が咲き,小さな実がつき始めると,さらに幼児たちの野菜に対する興味や関心は強くなり,「先生!お花が咲いとる!」「小さい実がついとるよ!」と喜び表現していた。この頃には野菜が育って実っていくイメージが少しずつでき始め,収穫への期待が徐々に高まっていた。 |
<6月〜 収穫>
毎日水やりをしながら「(実が)大きくなっとるよ!もうとれるかなあ?」と収穫を楽しみに野菜の様子を細かく観察する幼児たち。「全部が赤くなったらもう取ってもいいよー!という合図よ。」「これぐらいになったらもう取れそうやね!」などと収穫の目安を教師が知らせると,ますます野菜の変化に注目するようになる。
いよいよ収穫。赤く色づいたミニトマトやツヤがあり大きくなったピーマンやナスなどをハサミで収穫していく。「おいしそうー!」「これも取れる?」と喜びに溢れた言葉が飛び交う。今年度は新型コロナウイルス感染症対策のために,園で食べることはできず,家庭に持ち帰ることとした。収穫した次の日には,「お野菜,美味しかったよ!」「もっと食べたい!」とさらに収穫を楽しみにする姿が見られ,「ピーマン嫌いやけど食べれたよ!」と苦手な野菜にも挑戦することができたことを話す幼児もいた。 |
<7月~ 無人販売へ>
たくさんの野菜が毎日収穫できるようになってくると,年長児が中心に「お家の人とかお客さんにもお野菜を食べてもらいたい。」という意見が出始めた。昨年度,夏祭りで保護者の方や地域の方に収穫した野菜を販売したことを思い出し,「お野菜屋さん作ろうよ!」ということになった。しかし,新型コロナウイルス感染症対策のために,夏祭りは中止となり,対面での販売も難しいことを伝え,「誰もいない道にお野菜だけ置いてあるところがあるよ。」という経験も聞き,相談した結果,無人販売所を作ることになった。そのことを年少児にも伝え,みんなで“やおやさん”を運営することとなった。各々スーパーで野菜の値段を調べてきたり,どんな風にして販売するかを相談したりしながら,収穫したいろいろな野菜を袋詰めにして,1袋100円で販売することにした。1つの袋にどれぐらいの野菜を入れて100円とするかについては非常に悩み,決めるまでに時間を要したが,無事に決めることができた。お店の看板や飾りつけなどは年長児が作った。どこに設置するのかをさらに相談し,「お客さんもお家の人もいっぱい来る玄関にしたらいいんちゃん?」という意見から,玄関ホールに設置することにした。
年長・年少の各クラスで収穫した野菜を一緒に袋詰めし,いよいよ“やおやさん”をオープンする。降園時間からオープンということにしたため,一時預かり事業を利用している幼児がお迎えの保護者の方が来るたびにチラチラと玄関ホールを気にして,野菜を買ってもらえると“ガッツポーズ”をして喜ぶような姿も見られた。 また,次の日の朝,登園してきてお金入れにお金が入っているかを確認して「あ,お金入っとるよ!」と喜ぶ姿もあった。時には,思うように野菜が収穫できず,野菜をお店に並べることができないこともあり,「野菜屋さんって大変なんやなあ・・・」「毎日お世話もせなあかんし,僕たちしたいこともあるけど,お野菜のお世話もあるし・・・」などと農家の方の苦労を感じとっているような言葉が聞かれることもあった。
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また,無人販売所で野菜を購入した保護者の方からは「ピーマンが甘くて美味しい。」「新鮮で美味しい。」「毎日,今日はどんな野菜が売られているのか楽しみにお迎えに来ています。」などの声をいただき,自分たちが手がけたもので周りの人に喜んでもらうことができ,幼児たちも嬉しそうな様子であった。“売り手と買い手が喜びでつながる”そのような労働の意味や喜びについても感じることができたのではないだろうか。なかには,「最近,スーパーの野菜が高いから困っているんです。幼稚園の野菜はたくさん入って100円なのでとってもありがたいです。安くて助かります。」と袋をいくつも買ってくださる方もおり,新型コロナウイルス感染症の影響で野菜の値段が高騰していたことから,“少しでも安くて良いものを買う”というお金を大切に使う工夫についても知ることができた。 |
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反 省 と 考 察 |
野菜の栽培から販売までの一連の流れを幼児たちが体験することで,日常で食べていた野菜に多くの人が関わって自分たちの元に届いているということを知ることができた。また,農家の方の苦労や難しさを実感したことで,“大切に食べなければ”という気持ちになっていたようである。また,お金を得るということの難しさや大変さを味わい,お金の大切さを幼児が理解することができたと考える。さらに,いろいろな人の苦労や頑張りに対して対価としてお金を支払うことの大切さについても考えることができたのではないだろうか。幼児たちにとって非常に得難く貴重な経験をすることができたと考える。今後は,夏野菜の販売で得た収益金での買い物体験を計画している。自分たちが手がけたものを通して得たお金を使って買い物をすることで,お金の流れや労働の意味などについて幼児なりに感じとってほしいと考えている。 |