●平成23年度鳴門市桑島幼稚園活動内容(抜粋)
 
 研究主題 「お金や物を大切にする子どもの育成」
−労働の尊さ、お金や物の大切さを感じとる体験をとおして−
 
 T 本園の金銭教育
1 主題設定の理由は22年度活動実績を御覧下さい。

2 研究の内容と方法
(1)
  
働くことの尊さや大切さを知る体験活動。
@ 野菜の栽培活動や販売活動を実施し、働くことの大切さに気づくようにする。
(2)
 
 
 
 
 
 
 
 
お金や物の大切さを知る体験活動
@
 
 汽車乗車体験をはじめ、さまざまな体験活動を通し、生活の中でのお金の必要性や大切さを知ったり、物の大切さを知ったりできるようにする。
A
 
 
 クリーンセンターの見学や、リサイクル作品の製作などを通し、ごみの分別の仕方やリサイクルできる物があるなど、物の大切さを知ったり、身の回りの環境に興味関心をもったりできるようにする。
B
 
 さまざまな活動をとおし、遊具や用具を譲り合いながら一緒に遊ぶ楽しさが味わえるようにする。
(3)
 
 
 
 
保護者や地域の方への啓発
@
 
 学級懇談会や講演会、リサイクル展などを通し、保護者や地域の方が子どもたちの金銭教育に関心がもてるようにする。
A
 
親子での手作りおもちゃの製作や、保護者による金銭教育カルタの作成を通し、保護者の金銭教育への意識をより高めていく。
(4)
 
  
地域を活用して
@
 
地域の銀行や資源ごみステーションなど、さまざまな施設を利用し、地域を活用した金銭教育に取り組む。 
 U活動の実際
 実践事例 
 働くことの尊さや大切さを知る体験活動
 冬野菜の栽培と販売体験10月〜 
    子どもたちは、自分たちが一生懸命世話をして、収穫をした夏野菜の販売で得たお金で乗車券を買い、汽車に乗って堀江北幼稚園に交流にいった。そして、次は、冬野菜の収穫と販売でお金を得てマイケルに買い物をしようという目標をもって、冬野菜の栽培を始めた。販売方法は、夏野菜と同じで、幼稚園の玄関に屋台を出して野菜を置いておき、お客さんに野菜とお金を交換してもらう方法をとった。
 年長は、サニーレタス、水菜、小松菜、キャベツ、白菜、大根、ピース豆を植えた。夏野菜の時は、収穫して販売するだけだった年少児も、ブロッコリーとカリフラワーを植え、栽培から一緒に参加した。
 夏野菜を育てる時は、暑さや台風などの自然と向き合いながらの栽培活動であったが、今回は、一生懸命育てている野菜を虫に食べられるという被害にあった。「先生、葉っぱに穴がいっぱいあいとう。」「私、食べよう虫見つけるな。」「そうやね、お願いね。先生も虫見つけるからね。」と、虫への対応を子どもたちと一緒に考えていった。子どもたちは、「虫探そう。」と毎日みんなで虫を見つけて取り、野菜を守った。
 年長児のサニーレタスと水菜がそろそろ収穫できるという時に、みんなで値段をどうするかを相談した。夏野菜は、値段を設定してその値段に見合う量の野菜を子どもが考えて袋に入れていったが、冬野菜は細かい量の調節ができないので、収穫した野菜に見合う値段をつけることになった。
 子どもたちから「10円」「5000円」「ほんなん高すぎる。100円。」「1000円」といろいろな額の値段が出された。野菜の量と値段が結びつかない子どもも多かったので、実際にいくらで売られているのか、スーパーのマイケルに値段を調べに行くことになった。
 マイケルの野菜売り場に着くと、「あ、白菜あった。」「水菜はどこかな。」と自分たちが植えている野菜を探し、値段を見ていった。「この水菜は、128円です。」と教師がみんなに見せると、「わぁ。」とびっくりしたように大きな声があがった。実際に売られている値段と、自分が考えていた値段と違うことを知り、目を丸くして見ている子どもや首をかしげる子どももいた。
 幼稚園に帰って、みんなで相談すると「1000円とちゃうかったなぁ。」「50円。」「それは安すぎるなぁ。」「水菜、(一株で)128円だったよ。」と、子どもたちなりに適正な値段と自分たちの希望の値段との折り合いをつけながら値段を決めた。そして、収穫の度に子どもたちと相談し、値段を決めて販売していった。
  

考 察
    子どもたちは、お客さんにいっぱい買ってほしいという気持ちからサービスで安い値段を言ったり、期待が大きく、高く買ってほしい気持ちから高い値段を言ったりしたと思われた。安くても高くても、それがどれくらいのお金なのか実感がないまま自分の感覚でなんとなくの金額を言ったように感じられた。そのために、実際にはいくらで売られているのかを調べることにした。実際に売られている野菜と値段を見て、自分が考えていた値段との違いを子どもなりに感じたことがうかがわれた。実際に売られていた値段と自分の希望の値段との折り合いをつけながら、子どもなりに適正な値段をつけることができた。子どもたちには、自分の思うように簡単にはお金は手に入れられないことを知り、お金の大切さや、お父さんやお母さんたちからもらうお金やいろいろな物を買ってもらうお金は、一生懸命頑張って働いたお金であることに気付いてほしいと願っている。
 
  
 
   
 お金や物の大切さを知る体験活動
 みんなの大切なおもちゃの(遊具・用具)片付け 
    4月当初は、年長児も自分が遊んだおもちゃを片付けるだけで精一杯なことが多かった。片付けの後、幼稚園のみんなの大切なおもちゃであることや、おもちゃを片づけなかったらどうなるかをみんなで考えて話し合っていった。そして、みんなで片づけることを積み重ねていった。次第に自分たちの大切なおもちゃであると思うようになり、自分が使っていない物も片付ける姿が見られようになった。片付けが終わってから、置き忘れていたおもちゃを見つけた子どものことを紹介すると、「Aちゃんが見つけてくれたけん、なくならんかった。」という言葉が子どもから聞かれた。昨年度の年長児の姿を思い出し、今年も年長組が置き忘れているおもちゃがないか園庭をパトロールすることをみんなで話して決めた。片付けの後で、「パトロール行こう。」と友だちと誘い合って園庭を見て歩くようになった。「こんな所に自転車があった。」「スコップが落ちとった。」「置きっぱなしにしとったらなくなるよな。」と友だちと声をかけあいながら、片付けを忘れているおもちゃがないか探す姿が見られた。また、片付けの時には、砂場のおもちゃをたらいで洗う時におもちゃを放り込んでいた子どもが、そっと入れるようになったり、サッカーゴールを運ぶときに友だちに「破れるけん、ネット持たんと棒(柵)持とうな。」と声をかけあったりする姿が見られるようになった。
 
 
  
考 察
 子どもたちは、春からの積み重ねで、幼稚園のおもちゃはみんなの大切なおもちゃであることを感じるようになってきた。子どもの姿から物を大切にしようとする気持ちも育ってきていることがうかがわれる。リサイクル作品作りやクリーンセンター見学などの体験も、物を大切にしようとする気持ちが育つことにつながってきていることを感じる。
 
 
 保護者や地域の方への啓発
 
 
 平成22年度は、参加日などの機会を捉え、保護者とともに取り組みのねらい・計画・内容など、本園の金銭教育の取り組みについて話し合うとともに、金銭教育に関するアンケートや学級懇談を実施してきた。また、本園の金銭教育への取り組みの活動の様子を、玄関に写真で掲示するなど、保護者への啓発を行ってきた。平成23年度は、昨年度の実践を引き続き実施しながら、新たな取り組みも計画し、地域への広がりも考えながら実践を積み重ねてきた。
 
 講演会6月   
 日曜参観の時に、家庭教育学級の研修として、関西学院大学の山准教授を講師として迎え、「子どもとお金−金銭教育を考える」というテーマで下記資料に沿ってご講演をいただいた。この講演会は、新聞の「情報とくしま」にも掲載していただき、地域の方々にも広く参加していただくこととした。
       
 開催日 平成23年6月5日
 演 題 こどもとお金−金銭教育を考える
 講 師 関西学院大学人間福祉学部 山 泰幸 氏
 

  
講演内容(抜粋)
 ●はじめに

  
1)社会は交換によって成り立つ
2)お金の経済的機能
3)お金の社会的機能
 ●金銭教育の二つの方向

  
1)お金の使い方の教育→金融教育 高学年向き
2)お金の使い方を通した教育→人間教育 低学年向き
 ●お金や物の与え方、もらい方を考える
 
 
1)「誰が・誰に」→例)「親が」「こどもに」
2)「何を」例)「おこづかいを」、「お年玉を」
3)「いつ・どこで・どのように」 例)「お金の授受に適切な場を教えるため」
4)「何のために」 例)「おやつを買うため」
5)時と場合に応じて、「与えない」ことも大切な教育。
 ●おこづかい

 
  
1)どのように与えているか?
2)いくらぐらいの金額を与えているのか?
3)おこづかいが何に使われているか確認しているか?
4)おこづかいを通じて、こどもに何を学ばせたいか考えているか?
5)正しくお金を使えた場合は、ほめてあげることが大切。
6)嫉妬・妬み(ヤキモチ)に対する対応を学ぶ。
 ●友だちとの付き合い
 

  
1)貸し借り
2)おごる、おごられる
3)プレゼントを贈る、もらう。   

                                他 

 
 講演会についての参加者アンケートより 

 
 
お金の大切さや、自分たちの生活の中で、お金の使い方などがよくわかりました。今まで、子どもたちとお金のつながりなど思いつかなかったことを講演会で聞いて、とても勉強になりました。



非常に良かったと思います。子どもにお金の事を教えるという事を考える機会が今まであまりなかったので、いいきっかけになりました。また、今回お話いただいた中で、実際に同じ様な場面にあった時に、対応しやすくなったと思います。




子育てをしていくうえで、まだ今はすぐにあてはまる内容はあまりありませんでしたが、近い将来直面するだろうなと思い、勉強させていただきました。金銭教育に熱心に取り組んでいただき、ありがたく思っています。子どもと一緒に自分の感性を見直しつつ、今後も学習していきたいと思っています。貴重な研修、ありがとうございました。




幼稚園で金銭教育をしていくことは、本当にありがたいと思います。今まさに、お金にとても興味があります。買い物のレジでの支払い時や、おつりなど、「自分でする」「僕におつりちょうだい」と言ったりします。その度にきちんと説明できているかどうかというと考えさせられる講演会でもありました。いい機会になったと思います。



なぜ金銭教育が必要なのか、わかりやすくお話ししていただいたのでよく理解できました。これからは、常に意識し、実践していきたいと思います。あまり、深く考えていなかった面もあり、反省する点も多かったです。
考 察
  
 
 
 
 保護者の金銭教育への関心を高め、金銭教育の理解につながればと考え、家庭教育学級の研修として講演会を開催したが、今回の金銭教育の講演は、保護者にとって初めての講演内容であり、関心をもって聞くことができたように思う。また、山准教授のお金のもつ役割や影響などの具体的なお話をお聞きし、アンケートからもわかるように、保護者一人ひとりがそれぞれに感じ、研修を深め、金銭教育の大切さについて理解できたのではないかと思う。この研修会での学びが家庭での金銭教育につながればと考える。
  
 
 
 
 
 
          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 
 金銭教育カルタ9月〜10月 
   
 
 
 
 
 夏休み前に全員の保護者の方に金銭教育カルタを作ることを知らせ、金銭教育カルタの読み札の言葉を考えてもらった。読み札にあった絵札をはじめ、桑島幼稚園オリジナルの金銭教育カルタの作成をPTA活動の読書活動委員会の方にお願いすると、「子どもたちのために」と快く引き受けていただき、夏休み明けの9月から、一人ひとりの保護者が考えた読み札の言葉をもとに、読書活動委員会が中心となり、とり札の絵を一枚一枚考えカルタを作成してくれた。子どもが登園した後や、お迎えの時間を利用し、何日もかけ、『子どもたちが遊びやすく扱いやすい大きさはどれくらいなのか』『文字はどのようにしたらわかりやすいのか』など、子どもたちのことを考え、幼稚園職員とともに、また、保護者同士でアイデアを出し合いながら作業を進めていってくれた。
 この金銭教育カルタの読み札の言葉は、桑島幼稚園の保護者全員が考えたものなので、参観日に、桑島幼稚園の金銭教育カルタが出来上がったことをお知らせするとともに、玄関にカルタを展示し、保護者の方に見ていただいた。
   
 
 
 
 
 

   
 
 
 
考 察
 カルタが出来上がったことを保護者にお知らせをした時、保護者の方から「自分の考えた言葉がカルタになってとてもうれしいです。」という声が聞かれた。このように、実際に自分で、そして家族でカルタの読み札の言葉を考えたことにより、よりいっそう金銭教育への関心が深まるとともに、家族でも金銭教育についての話し合う良い機会になったのではないかと思う。また、保護者が昨年度からの取り組みを通し幼児期の金銭教育の大切さや必要性について理解してくれたことにより、「子どもたちのために」と、カルタ作りに協力してくれたのではないかと考える。
 

 
 
 
 
 
 地域を活用して
 銀行見学 10月
  
 地域の銀行に、子どもたちの金銭教育の一環として見学に行かせていただきたいとお願いしたところ、快く引き受けていただき、みんなで銀行見学に行った。銀行の方から、みんなのお金を預かっていることや、ATMや両替機などについての説明を聞いた。「ぼく、お母さんと一緒に来たことある。」「私のお母さん、カード持っとう。」「ぼく、お金貯めよう」など、自分の経験を話していた。銀行は、お金に関わる仕事をしていること、お金にはいろいろな種類があることなどがわかった。
 銀行見学後、幼稚園では、さっそくお店屋さんごっこを楽しんでいた子どもたちが、「先生、お金作って。」「本物みたいなんがいい。」と言ってきた。そこで、「どんなお金がいいの」「いくらのお金がいい」と聞きながら、 画用紙で500円玉や100円玉・10円玉を作った。子どもたちは、「これでお店屋さんにジュース買いに行こう。」と、うれしそうにお店屋さんに行った。
 最初は100円玉や50円玉・10円玉に興味を持ち、先生に作ってもらった後自分たちでも作って遊んでいたが、現在は札にも興味を示し、1000円札を作ったりし、財布を色紙や画用紙で作ったりして遊ぶ姿が見られる。作ったお金ではあるが、「お金は大切なものやけん、落とさんようにしような。」「うん。落としたらお店屋さんに行けんもんな。」と、友達と話しながらお金を大事そうに財布に入れている姿が見られた。
  
考 察
 銀行見学では、銀行の方に銀行の仕事やATMや両替機などについてやさしく丁寧に教えていただき、お金を預けられることやいろいろな機械があることを知ることができた。見学後、子どもたちの遊びの中に、お金や財布を作ってお店ごっこを楽しむ姿が見られるようになり、子どもたちの生活の中に生かされているのを感じた。
 
 V 研究の成果と課題
 成果と課題 

 
 
 




 2年間の取り組みの中で、野菜の栽培活動や販売体験、そして汽車の乗車体験、買い物体験など、お金とかかわるさまざまな体験を通し、お金を得る大変さや、生活の中でお金や物がとても大切なものであることを知った子どもたちは、遊んだ後の片付けを、自分が使っていない物も最後まできちんと片づけをしようとしたり、ティッシュなどの落とし物を拾い落とした友達に渡してあげたり、破れた絵本をセロテープで貼って修理したりなど、さまざまな場面で物やお金を大切にしようとする姿が見られるようなり、子どもたちのお金や物を大切にしようとする心の育ちを感じた。また、働くことの大変さや喜びを体験し、一生懸命働くことの大切さを知り、自分たちのために働いてくれている人への感謝の気持ちも育ってきた。









 取り組み1年目は、保護者の方には参加日などの機会を捉え、取り組みのねらい・計画・内容など、本園の金銭教育の取り組みについて話をしてきた。当初は、“子どもの金銭教育って何だろう”という思いであったのが、取り組みが進み、子どもたちが活動していくうちに保護者の関心も高まっていくのを感じた。
 取り組み2年目の本年度も、講演会をはじめ、さまざまな取り組みを実施する中で、保護者に金銭教育の大切さについて知らせてきた。このことにより、保護者の金銭教育への関心がよりいっそう高まり、桑島幼稚園オリジナルの金銭教育カルタを作ってくれたり、汽車の乗車体験や買い物体験などの園外保育の付き添いをしてくれるなど、保育活動のサポートを積極的に行ってくれるようになった。




2年間の取り組みを通して学んできたことを、これからも引き続き本園教育に取り入れ、さまざまな体験を通し、子どもたちの豊かな感性を育み、子どもたち自身が、自分の生活の中でお金や物を大切にするとともに、適切にお金を使っていこうとする気持ちや態度を育てていくことが重要であると考える。
 
 W おわりに
    幼稚園・保護者・地域が連携しながら2年間金銭教育に取り組んできたが、取り組みを進める中で幼稚園・保護者・地域のつながりが強くなっていったように思う。
 取り組みを終えて思うことは、子どもたちのモデルとなる私たち大人が一生懸命働くこと、そして、物やお金を大切にすることが重要だと考える。それは、働くことの尊さや物やお金を大切にしようとする意識をいつも念頭におき、子どもたちにかかわることである。意識をもっていると、自然と行動や姿に現れてくると思う。一緒に生活する中で、その姿を見ながら子どもたちの大切にしようとする気持ちや態度が育っていくのではないかと考える。そのために、園だけはなく、保護者や地域の方とも連携しながら共通理解を図り、大人が子どもたちのよきモデルとなるよう努めていくことが大切ではないかと考える。
 今後も、金銭教育に取り組み、働くことの尊さや、物やお金を大切にする心や態度を育て、今後の生活の中で物を大切にし、お金を適切に使っていける心豊かな子どもたちに育つよう、幼児期の金銭教育に取り組んでいきたいと考える。
 
 
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