●平成22年度鳴門市桑島幼稚園活動内容(抜粋)
 
 研究主題 人・物を大切にする心豊かな子どもの育成
 −働くことの尊さ、お金や物の大切さを感じ取る体験を通して−
 
 1 主題設定の理由
 現在、子どもたちを取り巻く環境は、少子化傾向も伴い、欲しい物がすぐに手に入る環境であり、物やお金の大切さを知る機会や体験が減少している。このことは、自分の持ち物をはじめ、遊具や用具を大切にしない、また、欲しい物があると独り占めしようとし、譲り合うことができないなど、子どもたちの姿に現れている。そこで子どもたちが金銭教育に係るさまざまな体験活動を通し、働くことの大切さや、お金や物の大切さを知り、人・物を大切にする心豊かな子どもに育つことを願い、本主題を設定した。
 2 研究の内容と方法
(1) 働くことの尊さや大切さを知る。
   @ 野菜の栽培活動や販売活動を実施し、働くことの大切さに気づくようにする。
(2) 人や物・お金の大切さを知る。
   @ 金銭教育に係るさまざまな体験活動を通し、友達と遊具や用具などを譲り合いながら遊
    ぶ楽しさや、友達と一緒に協力しながら活動する喜びが味わえるようにする。
   A クリーンセンターを見学し、ごみの分別の仕方やリサイクルできる物があることを知り、
    身の回りの環境に興味関心がもてるようにする。
(3) 保護者や地域への啓発
   
@ 保護者会や、学級懇談会などを通し、子どもたちの金銭教育について共に考え、連携を
    図っていく。
   A 園や地域でリサイクル展を開催し、本園の金銭教育への取り組みを知らせる。
 
 3 実践事例
(1) 働くことの大切さを知る。
【夏野菜の栽培と販売体験を通して】5月〜9月
   5月、ミニトマトやピーマンの苗を植えみんなで育て、7月より、夏野菜を収穫し販売した。年長児が教師と一緒に看板や、牛乳パックで作ったお金いれ作りに取り組み、お店を作った。野菜一袋を100円と決め、お店は幼稚園玄関に設置した。子ども一人一人が毎日交代で野菜を収穫し、お店に出し、買った人はお金入れにお金を入れるという方法で販売をした。このことにより、全園児が野菜の収穫と、直接売るのではないが、自分の収穫した野菜を売る販売体験を経験した。
<反省と考察>
   登園後、野菜を収穫し店に出しておき、必要な方に買っていただき、お金入れに代金を入れていただくという販売方法だったので、買い手とのやりとりはないが、子どもたちは「誰が買ってくれるんだろう。」「もし、売れなかったらどうしよう。」など、期待と不安でドキドキしながらの販売となった。お金入れの箱を振って、お金が入っていることを確認することにより、より売れた喜びを感じ、お金の大切さが感じられたのではないかと思う。今回は2種類の野菜だったが、もう少し多くの種類の野菜を栽培したほうが、売り手の子どもたちにとっても、買い手の方にとってもよかったのではないかと考える。
(2) 人や物・お金の大切さを知る。
【紙芝居を通して】
   保育室での読み聞かせの中で、「す・て・な・い・で」や「スイッチにんじゃ」などのエコに関する紙芝居を読み、子どもたちと一緒に物や資源を大切にすることの大切さを考えていく機会とした。遊んだ後の片付けの時、子どもたちから「これ、もったいない。まだ使えるね。」「ちゃんと片付けせなあかんよな。」と、いう言葉が聞かれるようになり、“物を大切にしよう”“大事に使おう”という気持ちが育っていると感じた。
<反省と考察>
   子どもたちに、絵本や紙芝居などの視覚を通して、自分の身の回りの物を大切にすることや、限りある資源を大切にすることを知らせていくことはとても有効であると感じた。そして、教師も交え、クラスのみんなで考え話し合い、共通理解をしていくことも大切であり、物やお金を大切にすることにつながっていくのではないかと考える。今後も、視聴覚教材の研究をし、保育に取り入れていきたいと考えている。
     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【買い物体験を通して】11月
   一人100円のお小遣いを持って、おやつを買いに行った。一人一人カード入れを財布にし、100円玉を入れて出かけた。子どもたちから、「このお金落としたら何も買えんよな。」「落とさんように大事にしとかなあかんなあ。」という言葉が聞かれ、お金は大切なものであり、落とすと代わりのお金がないことや、お金がないと何も買えないことなど、お金の大切さを知り、お金を大切にしなくてはいけないという意識を子どもたちがもちはじめている様子がうかがえた。また、「私、妹の分も買う。」「お兄ちゃんやお母さんにも買ってあげよ。」と、家族のお菓子も買ったり、「一つだけ買っておつり持って帰ろう。」と、100円のお金の使い方をそれぞれに考えながらお菓子を買っていた。
<反省と考察>
   子どもたちが楽しみに待っていた買い物体験では、一人ずつ100円を財布に入れおやつを買いに行ったが、おやつ代100円については、教師側で話し合い決めた金額であったので、子どもたちと相談しながら金額を決めた方がよかったのではないかと反省した。子どもたちがおやつを買う様子を見ていると、自分のためだけではなく、家族のためにおやつを買う姿や、一つずつ計算をしながら買う姿、おつりを大切に家に持ち帰る姿も見られた。このことから、一人ずつがそれぞれに考えながら100円を大切に、そして有効に使おうとしていることがわかった。このような経験が、子どもたちの金銭感覚を育てていくのではないかと考える。
 
(3)保護者や地域への啓発
【参観日やアンケート・写真の掲示を通して】
   参観日などの機会を捉え、そのつど幼稚園で取り組んでいる金銭教育について話したり、子どもたちの金銭教育への取り組み活動の写真を玄関に掲示するなど、保護者に幼児の金銭教育について関心を持ってもらえるよう努めた。また、とうもろこしの販売体験やリサイクル展の実施後、保護者や地域の方からアンケートを書いてもらい、今後の金銭教育への取り組みに生かしていけるようにした。
<反省と考察>
   保護者の方には参観日などの機会を捉え、取り組みのねらい・計画・内容など、本園の金銭教育の取り組みについて話しをしてきたが、最初は、“子どもの金銭教育って何だろう”という感じであったのが、取り組みが進み、子どもたちが活動していくうちに保護者の関心が高まっていくのを感じた。このことは、少しずつではあるが、さまざまな方法で園から保護者や地域にはたらきかけてきたからではないかと考える。また、今後も引き続き園から情報発信し、保護者や地域にはたらきかけていきたいと考えている。
     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【学級懇談を通して】10月
   参観日に県金融広報委員会よりお借りした「たつやくんの100円玉」の紙芝居を、子どもと保護者全員で見た後、各クラスで金銭教育についての学級懇談を行った。なるべく多くの保護者に話してほしいと思い、楽しい雰囲気で話しやすくするために、担任が進行しながら“おこづかいについて”や“おもちゃの買い方”“お年玉の使い方”などにつて、保護者同士で話し合っていただいた。懇談後、保護者から「みなさんが家庭でどんなふうにしているのかを聞けてよかった。参考になりました。」との感想が聞かれた。
≪学級懇談の内容より≫

 
おこづかいは子どもに与えず、お菓子などは子どもが欲しい時に買うという家庭が多かった。また、子どもがお手伝いをした時に、いくらか決めてお金をわたしているという家庭もあった。

買い物に行った時にお金をわたし、そのお金で自由に自分の好きな物を買う家庭もあった。

 
おもちゃは、日常は買わず、誕生日などの記念日に買う家庭や、祖父母が買ってくれるという家庭が多かった。
お年玉は、保護者が貯金するなど管理をしている家庭が多かった。
<反省と考察>
   紙芝居の内容は、小学生用だったので子どもたちには少し難しいのではないかと思ったが、家庭でも親子で話ができればと考え、保護者と一緒に見ることにした。子どもたちは、静かに真剣に見ていた。保護者の方のお金についての考え方を知ったり、金銭教育について考えてもらったりしたいと思い学級懇談会を計画したが、各クラスともなごやかな雰囲気で話し合うことができよかったと思う。また、保護者の方全員にお話をしていただいたことで、それぞれの家庭の様子や考え方がわかり、お互いの参考になったように思う。反省として、懇談の時間が行事の関係で20分ぐらいと短かかったので、もう少し長く懇談の時間をとれるよう計画すればよかったと思っている。
 
 4 総合考察

 
 
 
 
 
 自分が働いてお金を得るという経験は、子どもたちにとっては今まであまり経験のないことだと思う。今回、自分が働いて得たお金で、汽車に乗車したり、おやつを買ったりしたが、最初に子どもたち全員が同じ目標をもって取り組んだことは良かったのではないかと思う。とうもろこしの販売は、年長児だけが行ったが、「とうもろこしを頑張って売って、小さい組さんも一緒に汽車に乗せてあげたい。」「みんなで行きたい。」という年長児の言葉が聞かれた。一緒に目標をもって活動する中で、年長児には年少児への思いやりの心が育ってきたのではないかと思う。

 
 金銭教育に取り組みながら、環境教育へとつながり、さまざまな体験が人・物・お金を大切にする子どもへの育ちにつながったのではないかと考える。

 
 
 
 学級懇談をはじめ、写真での掲示などにより、保護者に金銭教育についての取り組みを知らせてきたが、少しずつ保護者も関心をもちはじめ、保育活動のサポートをしてくれるようになった。また、子どもたちのリサイクル展を地域の施設で行うことにより、地域の方にも金銭教育の取り組みについての理解を得ることができたように思う。

 
 
 
 
 
 子どもたちのモデルとなる私たち大人が、人や物、そしてお金を大切にすることが大切だと考える。それは、人や物・お金を大切にしようとする意識をもつことである。意識をもっていると、自然と行動や姿に現れてくると思う。一緒に生活する中で、その姿を見ながら子どもたちの大切にしようとする気持ちや態度が育っていくのではないかと考える。そのためには、園だけではなく、保護者や地域の方とも連携しながら共通理解を図り、大人が子どもたちのよきモデルとなるよう努めていくことが大切ではないかと考える。

   
                     過去の一覧へ