●平成21年沖洲小学校活動内容(抜粋)
≪T.研究主題≫
  くらしをみつめ、「生きる力」を育む金融教育
−「大好き!ふるさと沖洲学習」活動をとおして−
 
≪U.主題設定の理由≫
 アンケート結果からは、生活体験に乏しく、物や金銭の大切さに気付いていない子ども像が浮かび上がってきた。子どもたちには、しっかりと足元の生活を見つめ、物や金銭の大切さを学ばせたい。また、地域への愛着をもち、地域で働く人々の苦労や喜びを学ぶとともに、農業・流通業への理解を深め、社会のしくみをしっかりと学ばせたい。以上のような理由から、本校では子どもたちにつけたい力を次の3点ととらえた。
金融教育のねらい
 働く体験を通して、働いて収入を得ていることや、働くことが社会に貢献していることに気づかせる。
 お金の価値を知り、ものやお金を大切に使う態度を身に付けさせる。

 
 
 自分が様々なつながりによって支えられていることを理解し、親や周りの人、社会や自然環境に感謝する心情を育てる。
 また、各学年で育てたい力が、金融教育の中でどのように位置づけられるかについては、次のようにとらえた。
 
≪V.各学年の目標≫
 [ 第1学年 ]
 自分を支える家族に、感謝の気持ちをもつとともに、家族の一員として仕事を分担し、責任をもってそれを果たしていく態度を育てるとともに、ねぎっこフェスティバルを通してお金を大切に使う態度を身に付けさせる。
 [ 第2学年 ]
 ねぎっこフェスティバルを通して地域の人や他学年の児童とふれあい、協力してやりとげる苦労や喜びを味わうとともに、ものを大切に使おうとする態度を育てる。
 [ 第3学年 ]
 沖洲の町を調べることを通して、地域の人たちとふれあい、農業や商業などに従事する人たちの思いを知ることで、働くことの意味や大切さに気付かせ、その結果得られるお金を大切にしようとする態度を育てる。
 [ 第4学年<事例掲載> ]
 マリンピア沖洲海岸環境学習を通して、ごみのない自然豊かな海岸を残そうという意欲を高めるとともに、「捨てられた空き缶やペットボトルはごみではなく、資源となる」という意識をもち、物や金銭を大切にしようとする態度を育てる。
 [ 第5学年<事例掲載> ]
 地域の特産物であるねぎの栽培活動や販売体験を通して、生産の苦労や喜びを知るとともに、流通のしくみを学び、物や金銭を大切にしょうとする心情や態度を育てる。
 [ 第6学年 ]
 地域の歴史学習を通して、物や金銭の価値について理解を深めさせる。また、計画的に買い物をする経験を通して、金銭の管理や消費に対する望ましい態度を育てる。
 [ たんぽぽ学級 ]
 実際の生活の中で、お金を貯めたり使ったりする活動を通して、お金の値打ちを学び、将来の社会参加や職業生活への適応をめざす。
 
≪W.年間指導計画≫
 各学年の大きなテーマに基づいて、「大好き!ふるさと沖洲学習」の中で体験的な学習や地域学習を取り入れ、物や金銭について実体験できる機会を多くもつようにした。また、常時指導として、「くらしを見つめる学習」の中で「おこづかい帳をつけてみよう」「おてつだいをしよう」「持ち物に名前を書こう」などのこまやかな実践を積み重ね、子どもたちの意識を変えていこうと考えた。
 
≪X.活動事例≫
第4学年の取り組み「ゴミを資源に、資源をお金に」
<給食の残量調べ>
@ 活動のねらい

 
牛乳など給食の一つ一つの値段を調べ、ゴミとして廃棄される給食の残量物にも値打ちがあることを知る。
自分のクラスの給食の残量を測り、同額のお金を捨てることと同じであることを知り、物の大切さを学ぶ。
A 活動の内容
 給食の残量を調べる。
給食を食べ残すことを当たり前のように行う子どもたちに、「ものの大切さ」を理解させ、大人や担任が注意することで行動を改めていくのではなく、子どもたちが自身の考えで少しでも減らしてほしいと考えた。そこで、最初は担任がご飯とパンの食べ残す量を秤で調べ始めたが、その後、学級会で給食当番が調べることがよいということになり子どもたちの手で調べ始めた。牛乳については、12月になって飲み残すことが増えてきたことから、同様に給食当番が調べ始めた。調べた数量は、毎日扉に貼ったグラフに記入した。
牛乳など給食の一つ一つの値段を調べる。
  本校栄養士より、ご飯は100g当たり約70円(1人前85g57円)、パンは100g当たり110円(1人前50g55円)、牛乳は200ml当たり50円と聞いた。授業では、子ども一食ずつの値段以外に子どもたちに分かりやすくするために、100g当たりの値段も知らせた。

 
 
 
自分のクラスでゴミとして廃棄される給食残量物は、お金に換算するといくらになるのか調べる。子どもたちが自分たちでご飯などの残量の合計をお金に換算した。
 ご飯は63日間で合計28350g(約1万9千円)パンは16日間で4790g(約5270円)。牛乳は9日間で3150g(約790円)にもなった。
B 成果
 子どもたちはその食べ残しの多さと換金したときの金額の多さに、だれもが驚いていた。子どもたちの中から、自分の食べ残しを減らしたいという意気込みとか、自分の苦手な食べ物をどのように食べたら食べ残しは減っていくのかなどの意見が出たことは、これからの子どもたちの金融学習に対する方向性と見取ることができる。また、毎日給食を作ってくれている給食調理員さんや嫌いな食べ物を少しでも食べさそうと苦慮している家の人についても目を向けるまたとない機会となった。さらに食糧不足で食べ物がなくて困っている世界中の人々への募金活動などへの視野を広げることができれば、他の学習とも深く関連づけて学習できる可能性を見ることができる。今後とも、子どもたちに、食べ物や買ってきても使わず捨てているものにも、価値があることを理解し、その減量の実践ができるように支援していきたい。

<子どもたちの感想>
 自分のことについて
「こんな金額になるとは思わなかった。これから残さないようにしたい。」
「そんなにお金があったら、他のものが買える。食べようという気持ちになった。」
「合計2万5千円も捨てていたのと同じと分かって、残さないようにしようと思った。」
 家族やまわりの人々について
 「わたしはナスが嫌いですが、お母さんはみそ汁に入れてくれます。お母さんが工夫して食事を作っている姿を見たことがなかったので、次から一緒に作りたい。」
 「せっかく食べ物を収穫してくれたのに、その人に悪い。」
 「トマトが嫌いだけど、そんなときは調理員さんがハンバーグのような濃い味のおかずを出してくれていると思うから、それと一緒に食べるようにしようと思った。」
 
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第5学年の取り組み「めざせ!ねぎの達人−沖洲の良さを見つめて−」
<ねぎの生産体験〜お菓子作り〜バザーの販売体験>
@活動のねらい
○ 沖洲の特産品であるねぎの生産体験を通して、労働の尊さを学ぶ
○ 地域のねぎ農家の方の話を聞き、収益や流通のしくみについて知る
○ ねぎやねぎを使ったお菓子を販売することにより、お金を得ることの大変さを知る
A活動の概要
 ねぎの種まき(6月)
 プレゼンテーション作り(9〜10月) 
 ねぎの収穫(10月) 
 ねぎを使ったおやつ作り(11月)
 1月の参観日で販売するねぎを使ったお菓子の開発に取りかかった。製作と試食を繰り返し最終的に、すりごまと刻みねぎを練りこんだ生地で作る「ねぎセサミクッキー」を作って販売することにした。
バザーで販売体験(12月〜1月)
 1月中旬の参観日の後で開かれるバザーで、毎年5年生は収穫したねぎを販売している。今年は秋から準備を進めてきたクッキーも販売することにした。企画から準備、最終の売上げの精算まで、子どもたち自身の手で行うことにした。
 クッキーは「ねぎっこセサミクッキー」と名付けて、包装やシールはりなどの作業を進めていった。
お店を出すにあたり、売上げを上げるためにはどうすればよいか話し合った。子どもたちからは「試食品を配ってみたら」「最後の方になったら割引をしてみたら」など、様々な意見が出された。とりあえず、事前に全学年の家庭にちらしを配布する、早めに校内にポスターを張るなどの準備をし、各クラスの店舗にも工夫をこらした。それぞれが分担した仕事を一生懸命したので、当日は大盛況のうちにたくさんの売上げを出すことができた。
    
               役         割
  売り子(当日の販売)
広告マン(広告看板をもって宣伝)
お店設営(お店づくり)
ちらし作り(ちらしを作って他学年に配布)
ポスター作り(ポスターを作って各校舎の目立つところに張る)  
仕入れ係(予算を立て、材料を購入)
売上げ係(売上げを数えて、利益を計算)
 売上げから利益を計算
 約1300個のクッキーを焼いて、材料費等を差し引くと3036円の利益しか上がらなかった。また、約4カ月かけて育てたねぎを販売して収入を得た実感も得られた。
B成果
 ねぎの生産体験をすることで、「気候に影響されると、とれなくなることもあるんだな。」「ねぎ農家の人の仕事の様子がよく分かった。」といった声が聞かれた。さらに、ねぎやねぎを使ったお菓子を販売することにより、「クッキーがおいしかったとほめてもらえてうれしかった。」「宣伝マンをして声がかれたけど、お客さんがたくさん来てくれてやりがいがあった。」といった喜びの声もあったが、多くの子どもが、「仕事がこんなに大変だったなんて知らなかった。」「お金の大切さと買ってもらううれしさがわかった」「売り子をしてみて物ってかんたんには売れないんだなとわかった」という感想をもち、お金を得ることがどれほど大変かということも実感できた。
 
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特別支援学級(たんぽぽ学級)の取り組み「たんぽぽショップを開こう」
<事例1 お手伝い貯金>
@ 活動のねらい
○ 家庭でお手伝いをして駄賃をもらい、働くことと報酬との関係を知る。
○ 金種がわかって両替をしたり、金額を数えたりすることができる。
○ 出納簿をつける習慣を身につける。
○ 銀行で預金をすることができる。
○ お金の持ち運びの仕方を身につける。
A 活動の概要

 毎日、家庭でお手伝いをして「お手伝いノート」に記帳し、駄賃をもらう。(ひとつのお手伝いに対して、10〜50円程度)

 
 もらったお金は、なくさないように財布に入れて学校へ持参し、各自の貯金箱に貯めていく。この時、両替の仕方も学習する。

 
 出納簿に記入する。一の位の欄には1円玉の枚数、十の位には10円玉の枚数、百の位には100円玉の枚数を書く。1〜9枚までの数を数えることができれば、大きな金額も数えることができるようになる。
 二千円程度貯まると、学校の近くの銀行に出向いて預金する。
 長期の休みも毎日続けて行う。
B成果
 毎日、お手伝い貯金でお金を扱っているうちに、金額の数え方や等価関係などが無理なく理解できるようになってきている。また、少額でも長期間貯め続けているので、卒業時には、中学校の制服や自転車などを購入できる金額になる場合も多い。目的をもって貯蓄をすることの大切さを実感できるようになってきた。
 銀行の窓口では、騒いだり、動き回ったりせず、順番を静かに待ち、名前を呼ばれたら素早く受け取りに行くことができるようになりつつある。校外でのマナーを学ぶ良い機会となっている。
 
<事例2 買い物学習>
@ 活動のねらい
 ○ 実際の生活の中で、必要な品物を買うことできる。
 ○ 物のおよその値段がわかる。
 ○ お金の持ち運びの仕方を身につける。
A活動の概要
○学校での買い物
 学級内に、よく使う学用品などを売るコーナー「たんぽぽ購買」を作っている。色鉛筆や名前ペン、消しゴム、縫い糸、連絡袋など約20品を置いており、子どもたちは、お手伝い貯金を使って買い物をする。ちょうどの金額の払い方や、おつりの必要な払い方などを、それぞれの子どもの実態に合わせて、ゆっくり時間をとって指導する。実際の店舗での買い物の予習となる。
B成果
 特別支援学級では、教室の中だけでの学習は身につきにくい。実際の生活の中で、実際に行動し、失敗をしながら学ぶことが多い。何度も買い物の経験をすることにより「バッグから財布を出し、財布から必要な金額のお金を出し、落とさないように渡す」といった一連の動作が徐々に身についてきたと感じる。ひとりで買い物に行けるようになり、「一人でお使いに行きました。」と報告してくる子どもも出てきた。
 また、毎日こつこつと手伝いをしてお金を貯めているので、無駄遣いをしないという意識が自然に育っている。反対に、節約を考えるあまり、必要な物まで買わないということがないよう、価値のある使いみちや、使い方の優先順位についても指導しているところである。
 
Y.研究の成果と今後の課題
1.「大好き!ふるさと沖洲学習」を通して学んだこと
 体験的な活動や地域学習を通して、子どもたちはたくさんのことを学べたと思う。ねぎの栽培体験をした5年生は、地域の産業に触れ、働いている人々に、作業のこつを学んだり、苦労していることを聞いたりすることにより、売っている物にはたくさんの苦労や手間がかかっていることを身をもって知ることができた。また実際に販売体験をしてみることで、「おとなってこんなに大変なことをしているんだな。」と、働くことの大変さに気付いた子どももたくさんいた。
 沖洲の町を理解し、愛着の気持ちをもつとともに、そこで営まれている人々のくらしを生産、労働、流通、消費の面からとらえることができたと思う。

2.常時指導「くらしを見つめる学習」での児童の意識の変化
 「先生、このえんぴつも名前がありません。」道徳で落とし物についての学習を終えた子どもたちが、われ先に教師のもとへ落とし物を拾って集まってきた。それぞれの持ち物は、お金を出して家の人が買ってくれた物であり、愛情をこめて与えられたものであることを学んだ瞬間だった。
 各学年での「くらしを見つめる学習」は、自分のお金の使い方を振り返ったり、家庭の消費生活に目を向けたりする大切な契機となったと考える。

3.今後の課題
 落とし物が劇的に減り、ボールなどの扱いもていねいになってきている。しかし、コンビニエンスストアでの買い食いもあいかわらず目立っており、高価なゲームソフトやカードのまとめ買いといった遊びの形態は変化がなく、児童一人一人に十分、物や金銭を大切にしようという意識が定着しているとは言い難い。個々の家庭の考え方は様々で、保護者の中に、買い物の仕方やお金の使い方について、子どもに改めて教えていこうという姿勢もあまり見られない。学校だより・学年だよりなどで金融教育についてお知らせをしたり、懇談で個別に話をしたりして啓発を行ってきたが、十分とは言えない。今後は保護者との連携を密にしながら、家庭を巻き込んだ金融教育を推し進めていきたいと考える。

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