●平成19年度大野幼稚園活動内容(抜粋)
 
 研究主題  金銭教育を通して、生き生きと意欲的に生活できる子どもの育成
  −ものを大切にしたり、もったいないと感じたりすることで、
         自分たちの生活を見直す子どもの育成をめざして−
 
 金銭教育でめざす子どもの姿と目標
・ ものや人やお金の大切さに気付き、健全な金銭感覚を身につける子ども
・ 自分の周りで働いてくれる人たちに、感謝の気持ちが持てる子ども
・ 働くことの大切さを知り、自分でできることは進んで手伝うことのできる子ども
≪目標≫
 人や物やお金の大切さを4歳・5歳なりに気づき、家族や周りの人たち・ものとの関わりの中で、正しい金銭感覚を身につけていくことができる。
≪手段≫
 (1)金銭教育の目標・内容を明確にする。
   T 人やものやお金を大切にする。
   U 人やものやお金の価値を正しく知る。
     ・ 基本的生活習慣を身につける。
     ・ 労作意欲を育てる。
 (2)全体計画に位置づけ、取り組み、実践する。
 (3)関心を持ち、楽しんで取り組む。
 (4)リサイクル活動に取り入れる。
 
 (5)保護者・家庭・地域の人たちにも関心を持っていただき、連携を密にする。
 
 金銭教育でめざす子どもの姿
 現在の社会状況の変化は、子育て環境に大きく影響し、本園でも保護者への対応の難しさということが、大きな課題の一つになっている。この背景には、若い保護者世代の生活スタイルや価値観と、園のめざす幼児像や望ましい保護者の姿に、大きなズレが生じていることがあると考えられる。
 このような現状を踏まえて、お金や資産は有意義な人生を送るための手段の一つであって、人生の目的ではないということ、自分が贅沢で安楽な生活をするために、お金を使うのではなく、必要な人や目的のために使う大切な手段の一つという意識を身につけさせたいと考え取り組んだ。いろいろな取り組みを計画し、実践していくことで、保護者にも共に研修し、子育てに生かしていただきたいと願い、取り組んだ。
 
 研究の方法
 金銭教育への取り組みは、子どもたちの園生活の中でいろいろな面から学ぶことができるだけでなく、経験を重ねることで身につき、生きる力が育っていくと考えられる。
○本園の子ども・保護者の生活の中での問題点
  ・ 落とし物や忘れ物が多い。
  ・ 名前を自分の持ち物に記入できていない。
  ・ 次々に新しいものを持ってくる(ハンカチ・ティッシュなど)。
  ・ 通園カバンに、キーホルダー類をいっぱい付けてくる。
  ・ 用を頼んでも、返事をしないで聞こえないふりをしたり、イヤと言ってその場からいなくなる。
  ・ ゴミが目の前に落ちていても拾おうとしない。
  ・ 自分のものを平気で人にあげてしまう。
 
 実践事例−地域社会の中で−(抜粋)
納涼の集い
 毎年、夏休みに入ったすぐの日曜日に"納涼の集い"を開催して楽しんでいる。今年は子どもたちがお店を出して、売り子体験をすることに決まった。
 みんなでどんなものを売りたいか、どんなお店屋さんをしたいか考え、相談した。年長児ははたおり機を使って、ミサンガを織ったりビーズでストラップを作ったりして楽しんでいたので、そんな作品もお店で売ろうと話し合った。
約 束 ・ 年少児は保護者と一緒に買い物をする。
・ 年長児は教師が店屋になって買い物体験をした後、自分たちが店屋になって売る体験をする。
・ 地域の人、保護者、年少児など相手に必要なことばがけをする。
ねらい ・ ものを得るために、お金と交換することを体験する。
・ 買い物に必要なことばやお金のやりとりの楽しさを体験する。
反省 と考察
・ 日程の17:30〜18:30「よってらっしゃい かってらっしゃい」で、自分たちで値段を決め、物を売る体験もした。自分たちの作った思い入れのある作品を大事に思い、どんな声がけをしたらお客さんが来てくれるか、考えるなどできた。・いつもは遊びの中で、紙で作った模倣のお金を使っていた。しかし、自分たちの作品を実際に売り、本当のお金に替わるという体験を通して、働くことでお金がもらえるというしくみを、実感することができた。
 
スーパーマーケットでの買い物体験
ねらい ・ 計画的(一人150円)な買い方ができる。
・ 共通の条件の中で、買い物体験を含めた金銭教育をすることできる。
・ 友達、教師、店の人との関わりの中で、お金の使い方を学ぶことができる。

 
 

T 事前調査
 利用するスーパーマーケットに行き、許可を得た上で、子どもの人数、どのような商品があるか、店の雰囲気は、店の周りの危険なところは(交通量)など、具体的に把握し、計画する。
U 計画の立案
 どんな商品をどのように買うか具体的に考える。
  (どんな品物を いくらぐらいで だれに どんな気持ちで)
V 計画に基づいた買い物体験
反省と考察
・ 子どもたちを同じ条件(金額・場面・時間)のもとにおいて、買い物体験の取り組みをすることが大切である。そこで、おやつを買うという機会を利用して取り組んだ。子どもたちは保護者から買い物の知識を生活の中で教わっているので、事前に話し合うことでもっと知識を広げることができた。
・ おやつは自分のために買う子もいたが、弟や妹や家族のために感謝の思いを込めて買った子もいた。人との関わりを意識しながら、お金を有効に使う方法や大切さも4歳・5歳なりに学べた。
・ 予算は150円とし、全部使い切らなくてもよいという約束をした。しかし、中には150円をオーバーしてしまい、"ほれは買えんよ。お金が足りんでぇ…"と、年長児に言われ、棚に商品を戻す子もいた。自分の欲望をコントロールする経験もできた。
・ 年長児が自分の体験からリーダーシップを取る場面を認め、見守るようにした。わからないことは教師に助けを求めたり、10円や30円の少額の品物を数多く手にした子は、"これ いけるん?"と、確認したりすることで、安心してその子なりの計画をたてて買い物体験をすることができた。
 
 研究と成果と今後の課題
・ 幼稚園での金銭教育をどのように教育活動の中に取り入れていくかは、とても不安で自信が持てなかった。しかし、4歳児のA子が給食の時、"これ いらん" "こんなんすかん" "たべれん"などと言いながら給食を残している友達の様子を見て"もったいないなあ〜!おばあちゃんが食べるもんは大事にしいっていうたな!もったいないでえ"と、言った一言から、毎日の保育のいろいろな場面で子どもたちの取り組んでいる活動を生かすことが、金銭感覚を身につけていくことにもつながると再認識した。
・ 幼稚園の中にも、格差があり、その現実を子ども達も感じていることに、職員も切ない思いをする時がある。このような現状を踏まえ、私たちは一年間金銭教育に取り組んできたが、お金は有意義な人生を送るための手段であって、人生の目的でないこと。また、自分だけが贅沢で安楽な生活をするために使うのではなく、必要な人や目的のために使わないといけないということを、小さい時から知らせていくことが大切だと保護者の金銭教育に対する言動から再認識した。
 
 おわりに
 園児たちも教職員も保護者も"金銭教育って何?" "幼稚園児に今、必要?"と、手探りでこの一年間取り組んできた。一つひとつ体験を重ねていくことで、園児にも保護者にも教職員にもこれからの子どもたちの生きていく社会にいろいろな困難があっても、段取りよく生活していく力やものやお金の大切さ・正しい価値観を持って適切な生かし方をしていく力・勤労を尊ぶ力が必要と気づき、身につける努力をしてこれたように思う。
 平成19年度の取り組みを生かしながら、20年度はより一層金銭教育への取り組みをきめ細かく把握して、子どもたちや保護者の生活の中に根づかせていけたらと願い、研修を重ねていきたい。
   
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