●平成29年度徳島市技術・家庭科(家庭分野)消費者教育研究部会活動内容
 
 研究主題 よりよい消費生活を主体的に行う生徒の育成を目指して
—問題解決における主体的・協働的な学びを実践する授業づくり—
 
 1 はじめに
 私たちの消費は,個人の生活を豊かにするだけでなく,社会の在り方をも変える大きな力を持っている。安心して豊かな消費生活を送るために,自ら理由をよく考えて,意思決定ができる「自立した消費者」にとどまらず,社会の一員として,持続可能な社会のために,積極的に関与する「消費者」になることが今,求められている。
 このようなことから,技術・家庭科(家庭分野)学習指導要領の内容D「身近な消費生活と環境」における商品の選択と購入の内容や,生徒への消費生活のアンケートを実施し,その結果をもとにして,小題材の組み立てをした。また,商品購入シミュレーションをして,自分や家族がほしい商品を考えさせ,自分の置かれた状況を振り返り,理由を考えて,意思決定できるよう学習を展開した。そして,班活動やクラスでの発表を多く取り入れ,生徒が相互に意見交換をして,友達の意見の中からさらに様々な気付きが増えていくように授業を工夫した。
 
 2 研究の内容
   
   近年,身の周りには物があふれ,物質的には豊かな社会の中で生活している生徒は,よく考えずに商品を購入し,消費者トラブルの対処の仕方や,消費者トラブルという意味についても知らない状況がアンケートにより明らかになった。
 これらのことを踏まえて,消費生活の基礎基本を学び,消費者としての自覚を高め,社会の変化に対応し,環境にも配慮した生活を主体的に営むと能力と態度を育てたいと思い指導計画を立てた。
 また,授業で工夫したところが2つある。
 1つ目は,充実した言語活動の工夫として,班での意見交換と全体での発表を取り入れたところである。班では ポスターセッション方式を行い,1人1人の意見を共有した。全体では,スクリーンや実物投影機,またはホワイトボードを用いてクラス全員に説明した。2つ目は,生徒の思考の跡がわかるレポートの工夫である。実践レポートには,自分の考えや工夫点,感想,また友達からのアドバイス,そして改善点など,いろいろな視点から考え振り返られるようにしたところである。

 ①問題解決的な学習を取り入れた指導計画(15時間)
(1)家庭生活と消費(1時間)
 ①生活に必要なものの流れ
(2)商品の選択と購入(4時間)  
 ①商品購入のプロセス
 ②生活情報の活用
 ③商品の価格
 ④販売方法と支払い方法
(3)よりよい消費生活のために(5時間)
 ①消費生活のトラブルを防ごう
 ②消費者の権利と責任
 ③消費者を支える仕組み
(4)環境に配慮した生活(3時間)
 ①環境への影響を考える
 ②エネルギー消費を減らす
 ③持続可能な社会へ向けて

5)自分ならどうする?(2時間)
 
     
 ②主体的な学びの工夫
   ・自分に合ったきゅうりやTシャツを選ぶ
   デジタル教科書を使って,教科書の題材を考えた。
 自分に合ったきゅうりを選ぼうをテーマに,自分で考え,班で意見交換をし,前で発表した。まっすぐだが高いきゅうり,曲がっているが安いきゅうり,地元産のきゅうりなどがあり,理由を考えて選んだ。
 ホワイトボードを用いて話し合いをすると,視覚にも訴えることができて理解しやすく,自分の意見や友達の意見を共有でき,とても話し合いがスムーズにできた。

 ・商品購入シミュレーションをする(生徒の実践レポート)
   生徒が書いた実践レポート2枚の形式は,1枚目には自分が購入したい商品,その理由,予算,商品情報として,①情報の収集,②比較・検討,③購入場所決定,感想や生活に生かせることなどをまとめるようにした。
 2枚目には友達からの意見(付箋を貼る),改善を書くようにした。
 また,実践レポートを書くのが難しい生徒の手だてとして,他のテーマで先輩たちが以前に書いた実践レポートの掲示を見せた。
 被服室では,いろいろなテーマの先輩たちの実践レポートを掲示している。生徒たちが休み時間によく見ていて,先輩のまとめ方を見て,すごいなと感心したり,新し  い知識を得たりする生徒も見られる。
  実践レポート例として,
     
 購入したい商品は 歴史まんが 
≪購入方法や決定理由は≫
 ・○○社のものを買う。近くの書店で買う。ポイントをためることができる。図書カードを使う。
 ・高校・大学受験でも役に立つ充実した内容である。大人になっても使うことができる。
   一番内容が詳しく,わかりやすい。
 ・2016年刊行で最新である。
≪友達からのアドバイス≫
 ・多くのことを考えていてすごいな。
 ・充実した内容でよさそうだけど,環境のことも少し考えてみてほしいな。
≪改善点≫
 ・他の会社のものを見てみると,全然違っていて,見比べることがとても大切だと思った。
 ・今回は,自分に合った内容重視で選んだ。長く大切に使いたいと思う。
複数の具体的な視点や長く大切に使いたいと環境への配慮が書かれているので,Aとした。
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  別の実践レポート例として, 
 購入したい商品は バスタオル 
≪購入方法や決定理由は≫
・○○タオルを買う。インターネットで買うことができてとても便利である。現金で支払う。
・国内最大級のタオル生産地で作られているので安心だから。
・口コミの評判がよく,家族みんなで長く使えそうだから。
≪友達からのアドバイス≫
・インターネットの購入で,口コミの評判を見て,考えている。国産のものを買っていて,
  いいね。
≪改善点≫
・今まで,他にいいものがあるかあまり考えずに買っていた。これからは,他のものと比べて,
  本当に必要かを判断して考えて買いたい。
自分なりの視点や改善点が書かれているので,Bとした。
・環境に配慮した消費生活について考える。
 
 ③ 協働的な学びの工夫
  ・チラシ広告を調べをする 『改訂版 かしこい消費者になろう!~わたしたちの消費と環境~』の活用
 新聞の折り込みチラシを使って,広告調べをした。
 身近なチラシを用いての授業は,生徒たちの興味関心をひき熱心に取り組んでいた。チラシの気になるところを切り抜いて,ワークシートに貼る。そして,気づいたことを書き出す。さらに,利点と思うものに○を,問題点と思うものに×を,両方と思うものに△をつける。
 また,続きのワークシートでは,人を呼び商品を売るための工夫,消費者の心をゆさぶる言葉,広告を見やすくわかりやすくするための工夫,広告の落とし穴,…などを自分で考え,友達の意見からも考えるようになっている。
 友達の発表を聞いて,付け足すときは,赤色で記入するようにする。
 その後,自分で折り込み広告の利点や問題点,折り込み広告を利用するときに気をつけたいことを考えさせる。
 しっかりと記入できている生徒が多く,生徒の興味関心をひくワークシート作りの大切さを感じた。
 ※使用冊子「改訂版 かしこい消費者になろう!~わたしたちの消費と環境~」
  ・消費者トラブルについて知る
 デジタル教材の活用(悪質商法の動画),啓発や相談機関の紹介,「悪質商法ストーリーを考えよう」をして,班で話し合いや劇をする。
 ④ 学習評価の工夫
 評価の例として,実践レポートを改善する場面で,「工夫・創造の評価」を行った。
  「十分満足できるA」の評価が,複数の条件(価格や機能など)に加えて,環境や家族への配慮を具体的に考えている。
  「おおむね満足できるB」の評価が,複数の条件(価格や機能など)を考えて,自分なりに工夫している。
  「努力を要するCへの手立て」として,他のテーマの「実践レポート」や「商品を選ぶ条件の例プリント」提示をし,自分ができそうなことを考えさせた。
 
 3 成果と課題
   消費生活の授業後に,事後アンケートを行った。品質やアフターサービス,環境を重視したい生徒の割合がたくさん増加した。価格やデザインだけでなく,様々な視点で判断しようとする生徒が増えた。
 また,「消費者トラブルの対処方法を知っているか?」の事後アンケートでは,授業で学んで知識がついた生徒が多く,「知っている」と答えた生徒が96%であった。「あまり知らない」と答えた生徒が4%いたので,学んだことが定着するように,大事なポイントをワークシートやヒントカード,掲示物,ICTの活用などで視覚に訴え,反復学習を行うなど,様々な工夫をしながら実行したい。
 今後の課題として,増加し続ける消費者トラブルが多種多様化する現在,私たち教員が常に新しい情報を入手し,授業実践の工夫を行い,生徒が主体的によりよい消費生活を行う力を育むことが大切であると強く感じている。技術・家庭科(家庭分野)における,消費者教育の研究は,よりよい消費生活を主体的に行う生徒を育成するために,今後ますます大切になり,生徒にしっかりと身につけさせるために,新しい情報も伝えながら,大切なことをくり返し学ぶ機会が必要である。
 生徒が自分自身の問題であると認識し,実生活の中で,よく考え,自分らしく意思決定できる人に成長してほしいと強く願う。
    
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