●平成27年度板野郡家庭科消費者教育研究部会活動内容
 
 研究主題 深く考える授業の創造
〜 カメラの選択・購入の検討を通して 〜
 
 1 はじめに
  中学校技術・家庭科は,生活に必要な基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して,生活と技術との関わりについて理解を深め、進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てることをねらいとしている。 これは、金融教育のねらい「問題をより身近なものしてとらえ、他人事ではなく、自分の問題として 現実に即し、自分なりに工夫し、判断し、行動する力を養う」という ねらいとも合致している。 私たちの現在の生活は、商品やサービスなど必要なものがほぼ満たされ、物質的には大変豊かになった。店舗にもインターネット上にも欲しいものがあふれ、CMや広告などのメディアはこぞって購買意欲をかきたてている。そのような中で、中学生もひとりの消費者として生活している。しかし、消費者としての知識や経験はまだまだ乏しく、自覚もあまりない。一消費者として、まず必要なことは周囲にあふれるたくさんの情報を上手に活用するすべを身につけ、大量に生産された物資や、多様なサービスを一人ひとりのライフスタイルに合わせてよりよく選択し、活用することではないだろうか。 そして、本当に必要なものと、そうではないものを自分自身で見極め、社会のさまざまな問題と向き合って、深く考えたうえで意思決定していけることではないだろうか。
 昨年度は「深く考える授業の創造」というテーマで「カメラの選択(消費)」を通して生徒がより深く思考することをテーマに研究を進めてきたが、課題として、他の内容、他学年でも「深く考える」授業を繰り返し行うことが生徒の思考力・表現力・判断力を養う上で大切であることや基礎的・基本的事項の定着が思考の深さに関わっていることなどがあがった。
 
 2 研究のねらい
 そこで、今年度は、消費生活における様々なトラブルや問題点を知り、理解することによって、深く考えようとする意欲や関心を育て、情報の収集や整理の仕方など、授業で習得した知識及び技術を活用して,主体的に意思決定できる生徒を育てたいと思い本研究を進めてきた。 昨年度の研究をベースにし、基礎的・基本的事項をしっかりと押さえた上で社会にある様々な問題やいろいろなトラブルを提起し、生徒に深く考えさせた上で意思決定させるような授業を作ることを目標にした。
 
 3 研究の内容
  中学校技術・家庭科では、教科の内容が4つに分かれている。
   内容Aは家族家庭と子どもの成長について、内容Bは食生活と自立について、内容Cは衣生活・住生活と自立について、内容Dは身近な消費生活と環境についてである。
   昨年は、Cの衣生活の内容とDの消費生活と環境の内容で研究を進めたが、今年度はそれぞれ違う内容での関連をはかり、研究を進めるとともにその評価についても工夫することとした。
 
(1)内容A 家族家庭と子どもの成長について 
     授業のガイダンス段階(内容A)で、「世界がもし100人の村だったら」という絵本・動画を用い現在の自分の生活や消費のあり方が、世界とつながっていることを知らせた。
自分のなにげない買い物(消費行動)が、社会へ投じる投票と同じであることを学習を始める最初に押さえ、今後3年間の技術・家庭科の導入として授業を行った。
(2)内容B 食生活と自立について 
     ガイダンス後、食物の内容Bへと学習を進めました。「食品の選択」をする学習では「表示」はその食品の情報であることを自作のワークシートを元にゲームを通して学習した。
   また、近年問題になっている食品の偽装問題や 異物混入、食品添加物の必要性と危険性などを学習した。インターネットと図書室の本などで調べ学習を行った。 その授業の中で、生徒たちが一番衝撃を受けていたのは、ある天然色素の原材料が南米の昆虫由来であるということである。もちろん昆虫を食べる文化があることやこの食品添加物の安全性は国が認めていることなどにも触れている。 生徒は、自分がいつも選んで購入し、口にしているものは実際には何なのか、ということも気にするようになった。知らなければ選べない、学習しなければ それが本当の意思決定であるかどうかもわからないと言うことに気づいて欲しいと思った。そして、期末テストに次のような課題を出した。
どちらのハムを選びますか。
A 無塩せきハム 内容量50g 298円 賞味期限 5日
 ぶたロース肉 糖類(乳糖・水あめ) 食塩 酵母エキス
 香辛料(黒こしょう ナツメグ ローレル)
 原料の一部に乳成分を含む
 

B ロースハム 内容量40g 198円 賞味期限 20日
 ぶたロース肉 糖類 乳たんぱく 食塩 粗ゼラチン
  ポークエキス たんぱく加水分解物 酵母エキス リン
   酸塩 増粘剤 調味料(アミノ酸等) 発色剤(亜硝酸ナト
   リウム) 着色料(コチニール) 酸化防止剤 原料の一
   部に乳成分を含む
  この課題で多くの生徒が 「価格」「内容量」「賞味期限」のほかに 「食品添加物の種類や量」「安全性」についても考察し、商品を選択すると答えている。Aのハム、Bのハムどちらを選択するのが 正しいということではなく、多面的に考えて選択することの必要性を見た課題である。
生徒の解答の中には、
「Aを選ぶ。自分の家族は5人家族なので50グラムすぐに食べきってしまうから賞味期限は短くてもよい。安心して食べられる食品添加物などが少ないものを選ぶ。」
「Bを選ぶ。ハムを生のままサラダに使うには彩りがいい方がおいしそうに見えるから。使われている食品添加物も 安全だと国が認めているし、いままで食べてきてとくに何もないからかまわない。」
というように、より具体的に記述した生徒もいた。
   また、「今までは食品を選ぶときには値段しか見ていなかったが、ちゃんと表示をみて考えるようになった」などの感想もあった。
(3)内容C 衣生活・住生活と自立について 
    「既製服の選び方」では既製服を選ぶときには表示を確認し、価格、サイズ、デザイン、素材、手入れの仕方や、TPOにあわせた着装を 考慮することなどを学習した後、エシカルファッションについても触れた。 本来は耐久品であった衣服が、流行を追い求めるあまり、いまや消耗品として消費されており、その裏で過酷な労働や不平等な取引をやむなくされている世界があることにも気づかせたいと思った。その後、リメイク・リフォームに取り組む課題を出した。
(4)内容D 身近な消費生活と環境 
   今年度は、徳島県金融広報委員会のホームページでも紹介されている「改訂版 賢い消費者になろう」を活用し、広告調べや消費者に優しい広告作りを行った。広告作りでは、できあがった広告をグループ内で相互評価した。付箋に意見を書き、発表している生徒の広告にアドバイスとして添付した。この授業の感想として、「広告の多くは売り手側の意図したものだとわかった。消費者目線で広告を作ったけどいつも見ている広告と違って結構難しかった。自分が広告を見るときには作った広告を思い出したい。」「消費者にとって欲しい情報を全部広告に入れるのは難しいと思った。友達と広告について意見交換したとき、できてないことがたくさんあって、びっくりした。いい意見交換になった。」「売るための工夫ばかりが思いついて、なかなか消費者目線の広告にならなかった。自分が売るための言葉に洗脳されているような気がして少し怖かった」「普通のお店の広告ではあまりあやしいとか思わないけど、友達が作っている広告は怪しいものが結構あった。おもしろかったけど、自分がだまされていないか考えることができた。」などの意見があった。

 4 成果
    生徒自身が深く考え、自分らしい意思決定ができるようにするために 基礎的・基本的な事項を押さえるとともに、消費生活における様々な問題について提起を意図的にした。
そのような授業を繰り返す中で、感想や作品などから、生徒は自分らしい意思決定ができるようになってきたのではないかとみてとれる。自分なりに工夫し、判断し、行動する力が身についてきたのではないかと思う。 今回の実践では、生徒は、自分の生活のさらに先に、広がった世界があり、多くの人や物が自分とつながっていることを、少しではあるが知り、考えることができた。生徒の、生活や消費の仕方に問題を投げかけられたのではないかと思う。
    
 5 今後の課題・まとめ
   今後も、考える時間の確保とともに、繰り返しこのような考える場面を授業の中に仕組み、本当に必要なことをしっかりと生徒に身につけさせるために 基礎的・基本的事項を精選していくことを念頭に授業を創造していきたいと考える。
さまざまな問題が、誰かの問題ではなく,ほかならぬ自分たち自身の問題であるととらえ、生徒が将来、実生活の中で、深く考えてから自分らしく意思決定できる人に成長してほしいと願ってやまない。
   
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