●平成26年度板野郡家庭科金融教育部会活動内容
 
 研究主題  深く考える授業の創造
〜 カメラの選択・購入の検討を通して 〜
 
 1.はじめに
 中学校技術・家庭科は,生活に必要な基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して,これらを積極的に活用し,生活を工夫したり創造したりする能力と,実践しようとする意欲的な態度を育てることをねらいとしている。そこで今年度,「様々な問題と向き合い,解決する力を育む技術・家庭科教育〜深く考える授業の創造〜」をテーマに研究を重ねてきた。このテーマは金融教育のねらい「問題をより身近なものとしてとらえ,他人事ではなく自分の問題として,現実に即し,自分なりに工夫し,判断し,行動する力を養う」とも合致する。
 私たちの現在の生活は,商品やサービスなど必要なものがほぼ満たされ,物質的には大変豊かになった。店舗にもインターネット上にも欲しい物があふれ,CMや広告などのメディアはこぞって購買意欲をかき立てる。欲しい物があたかも必要な物だと錯覚し,日々何かしら満たされない思いを抱いている者も多い。そのような中で中学生もひとりの消費者として生活している。しかし,消費者としての知識や経験はまだまだ乏しく,自覚もあまりない状態である。一消費者として,まず必要なことは,周囲にあふれるたくさんの情報を上手に活用する術を身に付け,大量に生産された物資や多様化したサービスを,一人一人のライフスタイルに合わせてよりよく選択し,活用することではないだろうか。そして,本当に必要なものとそうではないものをきちんと見極め,自分の消費行動を客観的に考察し,常に批判的思考をもって,その消費行動を将来継続していけることではないだろうか。
 
 2.主題設定の理由
 学習前に行ったアンケート調査では,「これまでに商品購入で失敗した経験はあるか」という質問について,全体の約7割の生徒が「ある」と答えている。(図1)「ない」と答えた中には,価格がそれほど高額でないことから,失敗経験として認識していない生徒もいる。また,失敗の事例は「買ってみたが使わない」が48%,「もっと他に安い店があった」が40%と多くを占めた。また「環境に配慮した生活をしているか」という質問に対して,「とてもそう思う」,「そう思う」を合わせても37%と少なく,あまり意識できていないことが分かった。このことから,深く考えず安易に商品を購入してしまう点,環境に配慮した商品の購入ができていない点に課題があることが分かった。生徒には,今の自分の生活を見つめ,これからのよりよい生活のために,課題に気付き,深く考え,実践していく力の育成が不可欠である。自立した消費者として,主体的に意思決定できる能力を育てる一つの手だてとして,この研究を進めることにした。
 
図1 中学生の失敗経験
平成25年4月実施,2年生対象153人

 
 3 目指す生徒の姿

 
自分の商品の選択・購入の仕方に課題を見出し,主体的に解決しようとする実践的な態度がある。

 
自分や家族のよりよい商品の選択・購入のために必要な基礎的・基本的な知識及び技術を習得している。

 
習得した知識及び技術を活用し,よりよい消費生活を目指して課題に対する最適な解決策を考え出すことができる。
    
 4 研究仮説
    身近な商品の選択・購入について,繰り返し考えれば,自分や家族の課題に気付き,深く考え,よりよい消費生活を工夫し,創造する力を身に付けた生徒が育つであろう。
    
 5 研究内容
 
 (1)題材構成の工夫
   題材のはじめに,生活を送るために必要なものは商品として購入していることや,様々な購入方法や支払い方法があることなどの基礎的・基本的な知識及び技術を習得させた。その後,内容C(衣生活)との関連を図り,「Tシャツを選ぼう」で,Tシャツの選択・購入について疑似体験を通し指導した。
 次に,中学生にとって関心が高い携帯電話やインターネットの使用における通信販売等のトラブル事例,消費者の権利と責任について学習した。さらに本小題材「買い物アドバイザーになろう」で,商品についての情報を取捨選択し,責任のある意思決定ができるよう学習を深めた。
 (2)「深く考える授業」に基づいた題材指導計画
   小題材「買い物アドバイザーになろう」では,深く考える授業の一連の流れに基づき,これまで学習した基礎的・基本的な知識及び技術を活用し,さらに「修学旅行で使用するカメラ」という設定条件を加えることで,より具体的に自分のおかれた状況(使用目的,使用場所,予算など)を踏まえ,商品の選択・購入について考えることができるようにした。

@「課題把握・目標設定」
 これまでの商品の選択や購入・活用の学習では,よりよい商品を購入しなければいけないということは理解できていても,実際にどのように使うか,購入してどうなるのか,自分にとってよりよい商品とはどのようなものかなど,生徒個々の実生活と結び付けて検討することは十分ではなかった。本題材ではそのことを踏まえ,広告における売り手側の意図や,買い手に必要な情報の整理の仕方を学習し,実際に商品を選択・購入・活用するときにはどのようにすれば良いのか気付くことができるよう「買い物アドバイザーになろう」という目標を設定することとした。
図2 深く考える授業の一連の流れ

A「具体化」
 本小題材では,「実際に購入することをイメージできる」,「無店舗販売での購入や多様な支払い方法が考えられる」,「アフターサービスや環境などの視点を設定できる」など,消費生活の学習において生徒に気付かせたい商品選択の視点が考えられるカメラの選択・購入の場面を取り上げた。具体化の段階で,生徒は教師が作成したカメラカタログの中から,価格やデザイン,機能などを検討し,自分が購入したいカメラを選択していく。また,グループでの話し合い活動を通して生徒が個々に考えを深められるようにした。
 
B「最適化
 具体化の段階で一つのカメラを選択した後,「修学旅行で使用するカメラ」という設定条件を加えた。荷物の多い中で携帯することなど,より具体的な使用場面を考えながら,生徒は自分のおかれた状況を踏まえてもう一度カメラの選択を行う。そこで,カメラが本当に必要かどうか,さらに修学旅行後のことも考慮しながら,最適な解決策を決定していく。カメラの購入を検討することを通して,将来カメラ以外の商品やサービスを選択するときにも,自分自身が良き買い物アドバイザーとして深く考えることができるよう授業を進めた。
  (3)「深く考える授業」における言語活動の工夫
  @ ワークシートの工夫(図3「具体化」の段階のワークシート
  ア 「具体化」段階のワークシート
 「具体化」は,習得させた基礎的・基本的な知識及び技術を活用し,自分の選択について発表することにより,「解決策」をまとめる段階である。カタログから,おかれた状況に応じて選んだカメラとその視点や理由をまとめ,それぞれの意見をホワイトボードを用いて,グループで発表した。

イ 「最適化」段階のワークシート
 設定条件「修学旅行で使用するカメラ」を加え,これまでに優先した視点に加え,修学旅行での状況を具体的に深く考えていく。「具体化」の段階のワークシートに,色ペンを使用して書き加えるようにし(図3B),設定条件によってどのように思考が変化し,深まったか見取ることができるようにした。カタログからカメラの様々な情報を読み取り,修学旅行に必要なカメラの視点を考え,来年修学旅行へ行く後輩へアドバイスできるようにした。

A教材教具の工夫
自作のカメラカタログ
 デザインや色,値段に加え,環境やアフターサービス,購入方法など,消費生活の学習において生徒に気付かせたい商品選択の視点を入れた6種類のカメラのカタログを作成した。

B評価の工夫
 本題材の学習を進めるにあたって「指導と評価の計画」を作成した。最適化の段階の「生活を工夫し創造する能力」の評価を次に示す。

ア 「十分満足できる」(A)と判断した例


イ 「おおむね満足できる」(B)と判断した例
 6 研究の成果と課題 
 (1) 研究の成果
 本小題材の学習前後で「カメラ購入時には何に気を付けるか」という質問に対して,バッテリーが20%,重さが9%,画質が4%増加した。長時間使用できることや,持ち運びすること,画質のよい写真を家族に見せたいという自分の願望などを考えた結果が読み取れる。
学習後,消費生活がどのように変わったかのアンケートでは,商品購入時に気を付ける項目で,流行や欲しいものを優先するという考えは減少した。また,必要性が22%,品質が15%,使いやすさが14%増加した。また学習後に商品購入の失敗経験について尋ねたところ,「いいえ」と答えたものは82%であり,様々な視点をもって商品を選択しようと意識することで,失敗を減少させていると考えられる。このように生徒は身近な商品の選択・購入について,深く考え,繰り返し疑似体験することによって,よりよい消費生活を工夫し,創造する力を身に付けることができたといえる。
 (2) 今後の課題
 中学生は経済面で家族に依存しており,消費行動は家族の影響を強く受けている。しかし,自分でお金を稼ぐようになると,消費行動は一気に幅広くなる。購入経験の少ない中学生にとって,今回のような商品購入について検討する学習がいかに大切であるかが分かる。今後は,年間指導計画をさらに工夫し,衣生活以外でも関連を図り,常に深く考える場面を設定した授業を展開させる必要があると感じた。
 私たち一人一人,消費行動は異なるが,今後の人生の中で,どのような商品を選ぶ場合でも,何を基準に,何を優先して選ぶか,本当に必要であるか,しっかりと考え意思決定できることが重要である。利便性や自己の利益を求めるだけでなく,社会に対して責任を持った消費行動ができ,自分が本当に気に入ったものを長く大切に使うことができるなど,生徒には心豊かに持続可能な社会を目指す担い手となって欲しい。
   
   
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