●平成24年度徳島市・名東郡技術・家庭科(家庭分野)
                   金融教育部会活動内容(抜粋)

 
 研究主題

々な問題と向き合い,解決する能力を育む技術・家庭科教育
    〜自分と家族との関わりを見つめることを通して
            家庭の消費生活を考えさせる題材の工夫〜
 

 
 1 はじめに
 私たち一人一人は,生活に必要な物資やサービスを消費する消費者である。しかし,家庭生活における消費の重要性を普段は余り意識せず暮らしている。日本という物にあふれた豊かな国に育ち,生徒も保護者も,たくさん物があるのが当たり前という感覚がある。
 現代社会では,買い物がレジャーになっているとも言われている。休日に家族で大型量販店などに買い物に出かける生徒も多い。しかしながら,買い物に出かけても,子どもと大人が別行動をしている家族をよく見かける。家族関係の希薄化が,買い物の場面にも見られ,家族から学ぶべき消費生活についての基礎的な知識や技術を身に付けないまま大人になってしまう現実があるように思われる。また,携帯電話やインターネットの普及により,若者が巧妙に仕組まれた悪質商法の被害者になる事例も後を絶たない。
 そこで,家族から消費生活について学ぶ場を意図的に設定し,将来自立した消費者となるために,家庭における様々な消費生活の問題を家族と共に解決していく過程で,自分と家族との関わりも見つめさせる学習に取り組むことにした。その学びが,様々な問題と向き合い,解決する能力を育むことにつながると考える。
 
 2 研究のねらい
 研究にあたり,生徒や保護者を対象にして,消費生活の現状や意識についてのアンケート調査を行った。その結果を基に,自分や家族の生活の仕方や消費の在り方を改善するなど,よりよい消費者としての自覚がもてるようにする方法を探ることとした。
(1)生徒の実態
  本校2年生180人対象(平成24年4月実施)に消費生活に関するアンケート調査を実施した。
@ アンケート結果
    買い物の仕方について尋ねた項目では,「家族に買い物を任せている(自分ではほとんどしない)」と答えた生徒が23%おり,一人または友達と買い物に出かけると答えた生徒が7%,家族と一緒に買い物に出かけている生徒は,69%と多かった。(図1参照)しかしながら,そのうち63%の生徒が家族と買い物に出かけても別行動をとっていた。(図2参照)
     
 
       
 
A アンケート結果の考察
     上述のように,消費生活を家族に任せっきりでほとんど関わっていない生徒がいる。また,家族と買い物に出かけても買い物の中で家族との関わりがない。この2点が問題として浮かび上がった。
 そこで,家庭の消費生活を通して自分と家族との関わりを見つめさせる学習を展開することが大切であると考えた。
 
 3 題材の指導評価計画(※関連する学習指導要領の抜粋を下記に記載)
 次   学習内容(時数) 
  全11時間
               評     価
  買い物の失敗から学ぼう(1) D(1)ア
 
 
家族への聞き取り調査から自分や家族の消費生活について関心をもち,消費の在り方を改善しようとしている。
 2 文房具から
わたしの家の消費が見えてくる(2)
D(1)ア
 
 
筆箱調べ,家の文房具調べから家族の消費生活について関心をもち,消費の在り方を改善しようとしている。
D(1)イ
 
中学生に関わりの深い販売方法の特徴について理解している。
D(1)イ
  
家族の消費生活を通して,身近な販売方法の利点と問題点について考えようとしている。
 3 ロールプレイング
「家族で話合い解決しよう」(2)
D(1)ア
 
ロールプレイングや悪質商法対策ゲームを通して基本的な消費者の権利と責任,消費者基本法の趣旨について理解している。
D(1)イ
 
身近な販売方法に関心をもち,消費の在り方を改善しようとしている。
 4 ダイヤモンドランキング
「私の家の選択」(2)
D(1)イ
 
食品や洗剤などの選択,購入及び活用に関する知識を身に付けている。
D(1)イ
 
食品や洗剤などの選択,購入及び活用に関する必要な情報を収集・整理することができる。

D(2)ア
 
 
自分や家族の消費生活が環境に与える影響について関心をもち,環境に配慮した消費生活に関する知識を身に付けている。
 5 自分なりに解決しよう(2) D(1)イ
 (2)ア
聞き取り調査から家族の課題を解決するための方法について考えまとめ工夫している。
  自分と家族との
よりよい関わり方(2)
A(2)イ
 
これからの自分と家族との関わりに関心をもち,家族関係をよりよくするためにできることを実践しようとしている。
A(2)イ
 
自分の消費生活について課題を見付け,家族関係をよりよくする方法について考え,工夫している。
関・・・生活や技術への関心・意欲・態度  工・・・生活を工夫し創造する能力  技・・・生活の技能
知・・・生活や技術についての知識・理解
 
  ※学習指導要領の抜粋
A 家族・家庭と子どもの成長
  (1)自分の成長と家族について,次の事項を指導する。
  ア 自分の成長と家族や家庭生活とのかかわりについて考えること。
(2)家庭と家族関係について,次の事項を指導する。
  ア 家庭や家族の基本的な機能と,家庭生活と地域とのかかわりについて理解すること。
 
 
 これからの自分と家族とのかかわりに関心をもち,家族関係をよりよくする方法を考えること。
B 食生活と自立
C 衣生活・住生活と自立
D 身近な消費生活と環境
(1)家庭生活と消費について,次の事項を指導する。
   
 
 自分や家族の消費生活に関心をもち,消費者の基本的な権利と責任について理解すること。

 
 販売方法の特徴について知り,生活に必要な物資・サービスの適切な選択,購入及び活用ができること。
  (2)家庭生活と環境について,次の事項を指導する。
   
 
自分や家族の消費生活が環境に与える影響について考え,環境に配慮した消費生活について工夫し,実践できること。
 
 内容DとAの関連を図った題材の指導評価計画を上に示す。
 今回の学習指導要領の改訂では,内容Dは内容A〜Cと相互に関連を図り,展開できるよう配慮することが求められている。
 そこで,消費生活における家族との関わりに課題の見られる本校の生徒の実態を考慮し,内容DとAを関連させた題材の工夫を試みた。具体的には,「D 身近な消費生活と環境」と「A(2) 家庭と家族関係 イ これからの自分と家族,家族関係をよりよくする方法」とを関連付けた。そして,生徒と家族の消費生活と,家庭や家族に対する学びが結び付くように学習を展開することにした。
 
 4 研究の内容
  開 催 日           内   容    場  所
  4月28日  研究テーマ・計画決定  附属中学校
  6月 5日  アンケート,研究内容決定  附属中学校
  8月 2日  教材・教具について  附属中学校
  8月29日  アンケート追加について  川内中学校
 11月 5日  ワークシート改善について  加茂名中学校
 12月 1日  発表内容について  川内中学校
  3月18日  研究の反省と課題について  川内中学校
 
     題材を貫く「家族との関わり」を重視した授業づくり 
  @ 「家族からの聞き取り調査」
A 自分や家族の消費生活の振り返り
B ロールプレイング「家族で話合い解決しよう」
C ダイヤモンドランキング「私の家の選択」
D 「自分なりに解決しよう」問題解決的な学習
E 家族の消費生活に活かす標語づくり
F 自分と家族とのよりよい関わり方
 

 題材を貫く「家族との関わり」を重視した学習を@〜Fのように展開した。
@ 「家族からの聞き取り調査」
   学習の導入に当たり,家族の消費生活における問題点を把握するために,生徒が「家族からの聞き取り調査」を行った。家族の買い物の失敗については,「安いと思い大量購入したものの腐らせてしまった」や,「ネットで購入したもののイメージと違い使わなかった」などの失敗例があげられた。
 また,悪質な訪問販売など,消費者トラブルに巻き込まれた人もいることを知り,自分や家族の身近な消費生活について関心をもつことができた。
 
A 自分や家族の消費生活の振り返り
   生徒にとって身近な筆箱の中身調べと家庭の文房具調べを行った。家の中に大量のボールペンやサインペンがあることに気付かせ,衝動買いや物を大切にしない自分や家族の消費を振り返らせた。無駄な買い物をしないようにしようと家族で話し合った生徒も多かった。
 
B ロールプレイング「家族で話合い解決しよう」
   家族からの「聞き取り調査」から,通信販売によるトラブルやサイズ間違いなどの買い物の失敗が多いことが分かったので,ネット販売に関するトラブルのロールプレイングを行った。
 シナリオは,「親子がシューズと服を買い,返品・交換を断られた」,「姉が家族に内緒でサプリメントを買い,返品できず困っている」という,家族で話合いを行い,問題解決が必要な内容を選んだ。(「ロールプレイングで学ぶ消費者トラブル君ならどうするこんなとき!Part2 改訂版」財団法人 消費者教育支援センター編集・発行)
 生徒にはグループでの役割演技を通して,自分の家族を想起させ,アドリブでセリフを加えさせて解決を図らせた。
 また、悪質商法対策ゲームを用い、ゲームを楽しみながらクーリング・オフや契約の基本についておさえさせた。
 
C ダイヤモンドランキング「私の家の選択」
   家族の消費行動を想起しながら,商品の選択における視点をワークシートに自分なりに書き出し順位付けした。次に,グループで話合い活動を行い,商品選択における視点のダイヤモンドランキングを行った。この活動を通して商品に応じた選択方法を考え,自分の家庭の商品の選択方法の問題点にも気付かせた。
  
D 「自分なりに解決しよう」問題解決的な学習
   「家族からの聞き取り調査」を見て,自分ならどのように解決するか,調べ学習を行った。さらに,班での話合い活動を通して,考えを深め,レポートにまとめ発表した。(写真4,5参照)最後に,できあがったレポートを持ち帰り,家庭で話合い,家族にレポートの感想を書いてもらった。
               レポートを読んだ家族の感想 
失敗例と解決策が多面的に考察されていてよかった。
 
 
決定したことの見直しがきちんとできたら,失敗も少なくなると思う。よくまとまっていてよいレポートだと思った。
解決の仕方が分かりやすく,もしもの時に役立ちそうだ。
消費者としての自覚をもって生活しないといけないと思った。
 
E 家族の消費生活に活かす標語づくり
   これまでの学習を振り返り,家族の意見を取り入れ,家庭で話合ったことをもとに,これからの消費生活で,実践したいことを標語にまとめた。標語は家族が目にしやすい場所に貼り,実際の生活に活かすことにした。
  
F 自分と家族とのよりよい関わり方
    家族との関わりを重視した消費生活の学習を通して,自分と家族との関わりを見直し,家族関係をよりよくする方法について実践できることを考え,ワークシートにまとめ,発表し、学習のまとめとした。
              これからの自分と家族との関わりについて 
 
 
 
ただそこにある物はあって当たり前と思っていたけど,その物は忙しいのにもかかわらず,私のために用意してくれたということを自覚していようと思う。仕事で疲れていても母はよく買い物をして帰ってきてくれるので今度ちゃんとお礼を言いたい。

 
 
買い物について行って,食品売り場で,母に「まだー?!」と言ってしまった。だけど,私や家族のために一生懸命に考えて時間をかけて選んでくれていたと思うので,今度は母のことも考えて一緒に買い物をしたい。
 
 5 成果と課題
 内容DとAを関連付け,家庭の消費生活を通して自分と家族との関わりを見つめさせる題材の工夫に取り組んだところ,次のような成果が得られた。

 
題材を貫いて家族との関わりを重視した学習を毎時展開することにより,家族で消費生活に関する考えを深めることができたと答えた生徒が84%にのぼった。(図3参照)

 
買い物の中で家族との関わりがないという課題のあった本校の生徒の実態と照らしても,家族と共に考えを深めた学習の意義は大きい。


  
「家族からの聞き取り調査」,レポート,標語などの学習を通して,家族に学習したことを発信したり,家族と話合う機会を意図的に設けたりし,自分と家族との関わりを重視した学習を重ねたことで,自分の家庭に目を向けた消費生活の学習になった。

 
家族との会話が増え,家族との関係を具体的に変えていこうとする態度が感想からも読み取れた。


 一方で,課題としては,内容Aについての学びを深める場が題材の最後だけになってしまったことが挙げられる。今後は,題材構成や評価計画を見直し,内容Aについてもさらに意図的な学習を題材の中に仕組んでいきたい。
 
  おわりに
   様々な問題と向き合い,解決する能力を育む技術・家庭科教育を目指し,家庭の消費生活を通して自分と家族との関わりを見つめさせるために,内容DとAを関連させる題材を工夫した。
 家族との関わりを重視した消費生活の学習を行うことにより,内容Dだけで学習するよりも,家族の生活に目を向けた消費生活の学習を,深めることができた。家族から学ぶことを通して,生活体験の乏しい生徒は消費生活についての視野を広げ,これから生活の中で様々な問題と出会ったときに,向き合い活かせる力を身に付けたと考える。
 また,内容Aについても,実践的・体験的な活動を内容Dを通して経験させることができ,具体的な生活の場面での家族とのよりよい関係の在り方について学習させることができた。
 今後も家庭との連携を図った授業を展開し,消費者としての自覚を高め,身近な消費生活の視点から,持続可能な社会を展望して,環境に配慮した生活を主体的に営む消費者を育てたい。
   
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