●徳島市・名東郡技術・家庭科(家庭分野)金融教育部会活動内容(抜粋)
 研究主題  将来,社会で出会う様々な問題と向き合い,
 解決しようとする能力を育む技術・家庭科教育の創造
    〜消費生活における身近な課題を解決しよう〜
 
 1 はじめに
 私たち一人一人は,生活に必要な物資やサービスを消費する消費者であるが,家庭生活における消費の重要性を普段は余り意識せず暮らしている。日本という物にあふれた豊かな国に育ち,生徒はもちろんのこと,生徒の保護者にあたる世代にも,たくさん物があるのが当たり前という感覚がある。しかし,「新しい商品が出れば買う」,「安ければ買う」,「手間がはぶけるから買う」といった短絡的な考え方に代表されるような消費行動の動機には問題点が多い。また,商品の購入方法や商品の情報を入手する方法も多様化している。携帯電話やインターネットについては,大人よりも生徒の方がその機能に詳しい場合もあるが,若者がトラブルに巻き込まれる事例は増えている。
 一方で,東日本大震災以来,エネルギーや環境問題についても関心が高まっており,節電をはじめ,ライフスタイルや生活の仕方そのものについての意識変革が求められている。このような時期だからこそ消費生活と環境との関わりについてさらに関心と理解を深め,持続可能な社会の構築のため,これからの生活を展望して,自分や家族の生活を見直し,環境に配慮した消費生活について工夫し,実践ができるような力を育んでいくことは重要なことである。
 
 2 研究のねらい
 研究にあたり,生徒や保護者を対象にして,消費生活の現状や意識についてのアンケート調査を行った。その結果を基に,自分や家族の生活の仕方や消費の在り方を改善するなど,よりよい消費者としての自覚がもてるようにする方法を探ることとした。
 研究テーマである「将来,社会で出会う様々な問題と向き合い,解決しようとする能力を育む」ためには,消費の在り方や環境等に配慮した生活の仕方に関する,基礎的・基本的な知識と技術を習得させる必要がある。そして,自ら課題を見い出し,解決を図る問題解決的な学習を取り入れることにより,将来出会う様々な問題に対して対処していく能力を身につけさせることをねらいたい。具体的には,生徒にとって身近な消費生活の問題について,まず体験させたり,解決方法を考えたり調べたり発表したりする実践的な活動を通して解決させる。その体験を通して,これから出会うであろう様々な問題と向き合い,解決していく方法を体験的に身に付けさせたいと考える。その過程で自分なりに解決方法を模索すると同時に,話し合い等を通して,意見をまとめ表現していく能力や態度を育むことをねらいたい。さらに,小学校と連携し,小学校での学習を踏まえて学習事項を明確にし,これまでの学習を生かし,深めていく点を意識した題材構成とした。
 
 3 研究の内容
 生徒の実態
 川内中学校の生徒の消費生活の在り方や,問題点などについてアンケート調査を行った。(2年生167 人平成23 年4 月実施)(図1)「価格」,「デザイン」,「品質」,「流行」の項目を選択する生徒が多く,他の項目についての関心は低いことが分かった。アンケートを通して,何気なく行っている買い物について,問題点や考えるべきことに自分なりに気付き,解決しようとする契機となることをねらった。
 保護者にも買い物の失敗や消費者トラブルについて知っていることなどの調査を行った。その結果,さまざまな失敗があることがわかった。また,環境に配慮した買い物については,意識している生徒が少ないことも明らかになった。(図2)家庭によっては,消費者トラブルに悩まされた経験があるが,多くの生徒は直接的な消費者トラブルにはあっておらず,トラブルに対する対処の仕方も分からない生徒が多かった。(図3)
 
 研究の実際
≪ 活動記録 ≫
  実  施        時期研究テーマ・内容   会場等
 
  4月 6日
  5月21日
 
  6月 4日
  7月25日
  8月 3日
  9月10日
 10月22日
 12月 3日
  1月31日
 
 5月〜12月
○ 研修会
研究テーマ・年間計画の決定
アンケート内容
(生徒用・保護者用・小学校教師用)について
教材・教具について
資料等について
小中連携,問題解決学習について
アンケート集計について
発表内容について
発表内容について
今後の研究について・本年度の反省と課題
 
○ 授業実践等
 
城ノ内中
津田中
 
津田中
城ノ内中
城ノ内中
富田中
富田中
川内中
城ノ内中
 
各中学校
  
≪ 指導計画 ≫

かしこい消費者になろう
1 買い物の失敗から学ぼう 1時間
2 いろいろな販売方法・支払い方法 1時間
3 広告を作ろう 2時間
4 身近な消費者問題 2時間
5 環境に配慮した買い物 1時間
6 自分なりに解決しよう 3時間
 
≪ 小学校との連携 ≫

     本校の生徒は2校の小学校から入学してくる。よりよい指導のためには小・中の連携が大切と考え,指導の内容等について聞き取り調査を行うことを計画し,情報交換の機会をもつことにした。「身近な消費生活と環境」の内容に関しては,持ち物の点検や,買い物の仕方についての学習を通して,小学生にとって身近な買い物について学習している。具体的には,自分の買い物の経験を振り返ったり,買い物のメモを作ったりしたことが分かった。
 また,消費生活に関することだけでなく,「家族・家庭と子どもの成長」,「食生活と自立」「衣生活・住生活と自立」の既習内容や,小学校の指導で困ったことや問題点,中学校でも重ねて指導して欲しい事柄等について知ることができた。

≪ 授業実践 ≫
   ア 学習活動の工夫
 アンケート結果では,実際に悪質商法に巻き込まれたとがない生徒が多かった。しかし,中には悪質な訪問販売等に困ったことのある家庭もあった。そこで,ロールプレイングをすることにより,悪質な商法への理解を深め,対処のしかたを学ぶ機会をもつことにした。
 生徒がもっとも巻き込まれる可能性が高いと考えられる携帯電話におけるトラブルを取り上げ,携帯電話の模型を用いることにより,生徒の興味・関心が高まるようにした。(図4,図5)
 環境問題については,今年度改訂された「かしこい消費者になろう!(徳島県中学校技術・家庭科研究会)」のワークシートを用い,具体的な徳島県の数値を提示することにより,自分のこととしてより実感できるような指導をした。
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   イ 学んだことの活用
 アンケート結果を読み取り,その中から問題点を見つけ,解決方法を考えさせるようにした。
(1) 買い物の失敗から
 買い物の失敗の結果を分析し,保護者にインタビューするなどして問題点を見つけ,その解決方法について検討する。
(2) 消費者トラブルから
 消費者トラブルにあった経験を参考にし,未然防止策や対処の仕方について調べる。
(3) 消費生活と環境から
 環境に対する意識が低いことを提示し,問題点を話し合い,インターネット等で調べるなどして生活に生かしていく方法を考える。
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    ウ 学んだことの発信
 学んだことをクラス全体に発信するための工夫をする。
(1) 自らの考えを記入する
(2) グループ内で意見交換を活発にするために,話し合いの手順を提示し,確認する
 ワークシートへの記入や班での話し合い活動を通じて,自分の考えをまとめ,それをわかりやすく表現しようと努力する過程において,考察を深め,表現力を培っていくようにした。その際,班での話し合いの仕方をサポートするシートを用意した。
(3)ICTの活用により,視覚に訴える発表となるようにする
 教室内でインターネット検索のできるコーナーを作り,実物投影機や大型テレビの使用による発表を行った。
(4) 発表内容の評価をする
 発表を聞く際には,その発表ごとに「よくまとまっていたで賞」などの賞を考えさせるようにし,発表内容のよいところを意識させた。最後に,保護者へのアンケートや,発表した内容をまとめたプリントを家庭に配布することにより,家庭でも意識をしてもらえるようにした。
発表についての生徒の感想
 ・ 自分の知らないマークが調べられていて,わかりやすく説明してくれたのでよかった。
 ・ 消費者トラブルについてよく調べられていた。解決策がわかりやすくて参考になった。
 ・ 写真などを貼っていてわかりやすかった。買い物をする時に気を付けることがよく書けていた。
 
 4 成果と課題
 授業後のアンケート結果(23 年7月実施)より,「商品を買うときに重視すること」では,目先のことだけでなく品質や環境への影響,アフターサービスなどを重視する生徒が増え,学習の成果が見られた。(図4)「環境に配慮した生活をしている」という質問には,とてもそう思う,そう思うと答えた生徒が増え,環境に対する生徒の意識が高まってきた。(図5)
 授業を通して「自分が疑問に思ったり,知りたいことを解決できたか」の質問には,ほぼ解決したと解答した生徒が多く,話し合い活動や学級での発表を通して問題を解決する力をつけることができたと考えられる。しかし,自分なりの解決方法では,実際に行動に移す際には不十分な点も多々ある。そんな時にさらに問題点を見つけ,解決していく態度を培っていくためには,どういった手段が考えられるかということが今後の課題である。(図6)
 将来,予測していなかったような消費者トラブルに遭遇した時にも,自分で判断し,調べたり,時には人に相談したりしながら解決しようとする態度を育てたい。本題材で終わらせることなく,今後も,問題解決的な学習を取り入れ,話し合いや発表を通してトラブルを解決していこうとする力を身に付けさせていきたい。
学習を終えて生徒の感想
・自分の周りにも消費者トラブルはあるので,他人事ではないことがわかった。
・買う前に,本当に必要なものなのかよく考えることが大事だ。
・品質や表示をよく見て買い物をしようと思った。
・訪問販売などで,安いからとなんでも買わないで考える。簡単には信じ込まない。
・みんなの意見を聞いて,消費者トラブルもいろんな解決方法があるんだなと思った。
・これからは,環境によいものを使っていきたいと思った。
 
 5 おわりに
  消費生活や環境に関する問題は,常に身近にある。そのため,深く考えずに購入したり,環境に与える影響について考慮せずに行動したりすることが多い。学習したことが,単なる知識として終わることなく,かしこい消費者の一人として実生活でも実践して欲しい。今後も「買い物は投票である」ことについて気付かせ,商品選択の際には,情報を的確に判断し,環境にも配慮した商品を選択し,循環型社会の実現に向けて努力できるような消費者を育てたい。また,今回の話し合い活動は,問題の解決において効果的だったので,これからの学習にも取り入れ,生活にある問題を見つけ解決しようとする態度を育んでいきたい。
   
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