●徳島県中学校エコノミック研究会活動内容(抜粋)
 
 研究主題  技術・家庭科における消費者教育の研究
    〜賢い消費生活を目指して〜
 
 1 はじめに
 消費生活が豊かになり、現代社会に生きる子どもたちは、あり余るほどの品物に囲まれ生活している。そのために、必要な情報を取捨選択し、的確な判断のもと、安心して消費生活を送ることは、現代社会を生きていくための必須条件になってきた。また、情報社会の発展にともない、消費形態は様変わりし、店舗販売だけでなくインターネットやカタログなどを媒体とした通信販売も増加し、中学生の利用率も増加していると思われる。その支払方法もクレジットカードや電子マネーなど多種多様で、子どもたちを取り巻く消費生活が複雑化しているのが現状である。
 それにより、自分や家族の消費生活を振り返ることにより、家庭生活における消費の重要性に気付き、消費者の基本的な権利と責任について理解を深めるとともに、物資の適切な選択、購入ができる資質を身につけることが大切になってきた。
 そこで、販売方法の特徴や消費者の権利と責任に関する学習を通して、本当に今必要な物は何かを考え、多くの情報の中から適切な情報を収集・整理し、物資・サービスの適切な選択ができるようにすること、また、クーリング・オフ制度、消費者生活センターなど各種の相談機関を利用し、被害を未然に防ぐことや、実際に被害にあったときの対処方法なども身につけさせる必要があると考えた。
 
 2 本グループの取り組み
(1)生徒の実態・課題の把握
 本グループでは、生徒の実態・課題を把握し、適切な指導方法を検討するため、県西部の中学1年生175名を対象に消費生活に関するアンケートを行った。
 その結果、毎月定額の小遣いをもらっている生徒は約半数、必要な時にもらうという生徒が多い。また、どこで買い物をするかの質問に対してはスーパーで買い物をする生徒が一番多く、次いで自動販売機という結果であった。
 県西部では過疎化に伴う人口の減少などにより、小売店の数も減りつつある。このようなことから休日に家族で県外のショッピングモールへ出かけ、買い物をする生徒も少なくない。生徒にとっては地元に大手の量販店が少ないこともあり、まとまったお金を手にし、自分で買い物をする機会が少ないと言える。 しかし、買い物での失敗経験を問う質問では、買い物での失敗経験は70%の生徒が「ある」と答えていることに大変驚いた。その中で失敗したと思う理由は「買ったがあまり使わない」という理由が一番多く、「他にもっと安い店があった」「自分が思っていたものと違った」など、購入時の商品の正しい選択ができていない、口コミやテレビCM、雑誌の宣伝などにより商品を購入している傾向にある等、消費生活の基本的な知識を十分に習得できていないことがわかった。
 以上のことから、商品の正しい選び方について学習を深め、賢い消費者として消費生活を送ることができる生徒を育てたいと考え指導計画を作成した。
学習指導計画
 1 自分の消費生活を振り返ろう
 2 消費生活に関する気になる記事を調べよう
 3 商品を適切に購入しよう
 4 悪質商法ってどんなもの?
 5 消費者としての自覚を持とう
 6 かしこい消費者になるために
 7 消費生活と環境

(2)教師の資質を高めるための研修会
 本グループでは、消費生活に関する学習を進めていくにあたり、徳島・鳴門・板野中学校金融教育研究グループが徳島県消費者情報センターの協力により作成した『かしこい消費者になろう!』のテキストを活用することにした。このテキストは中学生の実態に即し、充実した内容のワークシートがそろっている。
 従ってこの中のワークシートを生徒の実態に合わせて活用することで、有効な学習効果が期待できると考えた。
 また、本グループでは中学生の消費生活に関する指導教師側も常に新しい情報を入手し、学習活動に生かしていく必要があると考えた。徳島県消費者情報センターでの指導者研修では、最近の徳島県での消費者トラブルや悪質な業者、またその販売の手口とその対処法、消費者教育関係のソフト教材の紹介、消費者情報センターでの相談業務についての説明を受けるなど、充実した研修を行うことができた。
 
 3 授業実践
(1)自分の消費生活を振り返る
 消費生活に関するアンケートを実施した。それにより自分の身近な消費活動を振り返ることで、家庭生活における消費の重要性に気付かせるとともに、自分や家族の消費生活について関心を持たせ、目を向けさせるよう働きかけた。中学1年生を対象とした学習であるためか、自分たちが「消費者」という認識を持っていなかった。また、消費生活についても日頃自分のお小遣いを持ち歩いても、その額は数百円〜千円程度であり、お小遣い帳をつけている生徒はほとんどいないことがわかった。
(2)消費生活に関するニュースを調べよう
 消費生活の中で重要な情報やニュースを察知し、自身の生活に生かしていくことは、我々大人にとっても大切なことである。事前のアンケートでは自分の消費生活について関心があると答えた生徒が大半であったが、商品購入時のトラブルや悪質商法についての事件やニュースについてあまり知識を持っていなかった。
 中学生も消費者の一人として社会の出来事に目を向け、知識を得ることで未然にトラブルを防いだり、よりよい消費生活とは何かを考えるきっかけになるのではないかと考えた。そこで、身近にあるニュースの中から消費生活に関する記事を取りあげ、自分の考察を加えながら発表しあうことにした。
 タバコの値上げ問題、またアイドルの名を利用した詐欺事件について発表があり、それを聞いていた生徒も、消費者をとりまくニュースがたくさんあることに驚いた様子だった。
 
<生徒の感想>

 
 
自分の発表原稿を書くとき、いろいろな記事を見てどれが適切かを考え、より分かりやすいように書き直すことができた。新聞をはしからはしまで見て記事を探したり、みんなにわかりやすく伝える工夫をした。他の人の発表でもいろいろな記事がありとても勉強になった。

 
 
新聞の記事とかでよくわからないところもありましたが、たくさんのニュースを知ることで「もっと具体的に知りたい。」という風に思えたので、授業前より授業後の方が消費者トラブルに対する意識が深まったと思います。
 
(3)商品を適切に購入しよう
 商品の販売方法は実に様々で、ネット販売やカタログ販売などは、中学生の利用も多くなってきていて、トラブルが多いことも理解させた。また、商品購入時の支払い方法についても、販売方法の多様化に伴い複雑なものになってきていること、無計画な後払いによる多重債務のことなどについての学習をさせた。
 
(4)悪質商法って何?<視聴覚教材の利用>
 教育効果をあげるために視聴覚教材を活用した。ビデオ等ストーリー性のある教材を選んだことで「もしも自分だったら」と危機感を持ちつつ集中して鑑賞することができていた。中でもビデオソフト教材『悪質商法があなたを狙っている』では悪質商法の手口やたくさんの人が被害にあっていることを理解させることができた。さらに悪質商法に対する憤りや疑問を持った生徒も多かった。
 
(5) 消費者としての自覚を持とう<ゲストティーチャーを招いて>
 徳島県消費者情報センターより南部博之先生をお招きし、「消費生活の中でのトラブル対処法」についての講演をしていただいた。以前の授業で悪質商法についてのビデオをみて、「もっといろいろな悪質商法について知りたい」「悪質商法をどのように見分けたり防げばいいのか」という疑問を持った生徒もいたこともあり、講演会ではその疑問に応える内容のお話しもしていただいた。
 お金の価値からはじまり、契約の成立、契約の取り消しなど、消費者の権利と責任について学んだ。また、生徒の半数近くが所有している携帯電話のトラブルやインターネットショッピングによるトラブルの対処法をDVDを交えながらわかりやすく説明していただいた。最後に消費者情報センターの相談業務、その他の啓発活動についての説明を聞き、被害にあったときの対処法についても確認することができた。特に「断り方の練習マニュアル」は生徒にとって印象的であったようだ。自分の意志をはっきりと言葉で伝えて行動していくことの重要性について気付き、講演会の感想の中にも「きっぱりと断る」と書いている生徒も多かった。

 
(6)かしこい消費者になるために<チラシ広告をつくろう>
 事前に行ったアンケートの中で、買い物で失敗をした生徒が78%を占めていた。また「商品を選ぶ時にどのような情報を参考にして選ぶか」という問いに対しての回答は次の通りであった。
 1位 実際の商品を目で見る
 2位 家族や友達に聞く
 3位 テレビCM
 4位 新聞や雑誌の記事・広告
 5位 カタログやパンフレット

消費生活の中であらゆる情報の中から自分の欲しい商品を選ぶことは簡単なことではない。買い物で失敗をしないためにも消費者として何を基準にして商品を選択すればよいのか、広告をみて本当に必要なものを購入するためには事前にどのような情報が必要なのかを考えさせる必要があると考えた。販売者の立場に立って広告を作ることで、販売者が商品を売るために、広告にどのような工夫をしているのか。また、いきすぎた表現のチラシ広告になっていないかなどを考えながら班に分かれて清涼飲料水の広告作りをした。
 消費者にやさしい広告とは、消費者が知りたい情報をわかりやすく伝えてくれる広告である。生徒は消費者の立場で知りたい情報は何かを考え、わかりやすい言葉や文字の大きさ、色づかいやレイアウトを工夫して仕上げた。また自分たちが作った広告が「消費者にやさしい広告」の条件を満たしているか、いきすぎた表現はないかなど、学級で発表会の時間を設けて評価しあった。
 生徒たちは他の班が制作した広告を興味深く見て質問をしたり、意見を発表したりと積極的に学習に取り組むことができた。
       広告作り〜発表会までの手順
 1)どのような清涼飲料水の広告をつくるのかを考える。
 2)プロジェクト企画書
 3)広告作り
 4)発表原稿づくり(想定質問と解答)
 5)発表会
 
 4 今後の課題
 講演会の翌日、男子生徒が生活記録に携帯電話による消費者トラブルに巻き込まれていて、自分でどうしてよいか分からず、今まで悩んでいたことを書いてきた。担任がその日に対応し、トラブルの解消に至り、事なきを得た。この事例のように、消費生活に関する学習は生活に直結したものであり、消費者としての自覚を持った生徒の育成につながると考える。
 授業前のアンケートで「消費生活にトラブルが起きたとき、適切に対応することができると思うか」の問に対し、46%の生徒が「できる」と回答していたが授業後には72%と「できる」自信がついた生徒が増えた。しかし「できない」と回答した中には、
 
少し怖い感じがして、きっぱりと断れるか自信がない。
 
どのようにしたらよいかがわかったが、その時になってみないとことわれるかわからない。
などの理由があり、生活体験の少ない生徒にとっては消費者トラブルに対する対処の仕方がわかっていても、「行動に移せるだろうか。」など新たな不安を抱えていることがわかった。このことから今後の学習においては、ただ知識として理解するだけでなく、得た知識を自分の消費生活に生かしていることが重要である。そのためにも体験的な学習を多く取り入れていくことや、地域の実態や生徒の実生活に即した学習を深めていく必要があると感じた。
 消費生活の変化に伴い、消費者トラブルも多種多様になってきている。その中で学校での消費生活に関する指導は、重要視されてきているといえる。中学校の新学習指導要領の中で技術・家庭科における消費生活に関する指導は「中学生の身近な消費行動を振り返ることを通して、家庭生活における消費の重要性に気付き、消費者の基本的な権利と責任について理解を深めるとともに、物資・サービスの適切な選択、購入及び活用ができるようにすることをねらいとしている。」と表記されている。そのためにもわれわれ教師自身も目覚ましく変化している社会の情勢に目を向け、常に研修を重ねていくことの大切さを痛感した。
 今後の学習ではこれからの生活を展望して、一人一人が環境に配慮した生活を送る必要性に気付き、循環型社会を目指して生活の在り方を工夫し、実践できる力をつけさせたいと考えている。それと同時に総合的な学習の時間との連携を図ることで、環境に配慮した消費生活についての学習を深めたいと考えている。


   
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