●令和5年度徳島県家庭科消費者教育研究グループ
 
 グループの概要・年間スケジュール
 徳島県家庭科消費者教育研究グループは、徳島県中学校家庭分野研究会の中で、学習指導要領C、内容 「消費生活・環境」より、県内5校が連携し、消費者教育に関する研究をしている。
年間スケジュールは以下の通りである。
  (1) 消費者としての自覚(1時間)
(2) 購入方法と支払い方法(1時間)
(3) 変わりゆくお金、その使い方と持ち方(1時間)
(4) キャッシュレスの支払い方法・クレジット契約のしくみ
   キャッシュレス利用のメリット・デメリット(1時間)
(5) バランスよく計画的な金銭の管理(1時間)
(6) 消費者トラブルとその対策(1時間)
(7) 何を考えて決めますか?
   様々な支払い方を生活に上手に取り入れるための工夫 ~意思決定のプロセス~(1時間)
(8) 消費者としてできること ~権利と責任~(1時間)
(9) 省エネルギーと持続可能な社会 ~SDGsを考える~(1時間)
(10) 持続可能な消費生活を目指して ~SDGsとの共生を目指して~(1時間)
 研究主題(テーマ)
  青年期を迎え、これから本格的に社会活動に参加したり、さまざまな経済活動に関わったりしていく中学生にとって、消費者教育の分野で学ぶべき課題は多い。消費者トラブルや環境問題などの社会問題に加え、商品流通の流れを理解したり、キャッシュレス化などの変化に対応したりと、時代とともに変化する金融・金銭教育に対応する力の育成まで求められている。現代社会の課題に対応した消費者教育の実践をすることで、身近な消費生活と環境について課題を解決する力を養い、これからの生活を展望しながら、工夫し創造しようとする実践的な態度を育成することを、本グループのねらいとした。
 
 研究目標

 
中学生がこれからの生活を展望しながら、自立した消費者として、主体的に消費者市民社会の形成に参画することができる力を育む。


 
 
商品流通の流れを理解したり、キャッシュレス化など最新の経済の動きに対応した金融教育を実践研究したりすることにより、金融のさまざまな働き、金融に関する基礎知識を習得しながら、その経済活動におけるメリットやデメリットを理解し考える力を育み、これから変わりゆく社会に適応できる力を伸ばしていく。
 
 研究計画

 
消費生活、金融・金銭教育、キャッシュレス社会に関する基礎知識を教材として印刷した資料から習得する。
キャッシュレスのメリット・デメリットを理解し、有効な活用の仕方を考える。

 
東京都消費生活総合センター製作のDVD教材を使い、消費者の行動が社会、環境に与える影響を学び、金銭管理も含めたお金の使い方をシミュレーションする。

 
ロールプレイングを活用し、考えを共有しながら、自立した消費者として、主体的に消費者市民社会の形成に参画することをめざす。
タブレットを有効に活用し、レポートをまとめ、プレゼン資料を作成する。
 
 実施教科・実施学年
技術・家庭科(家庭分野)、中学2年生、3年生
 
金融教育プログラムに該当する4分野の項目
生活設計・家計管理に関する分野
消費生活・金融トラブル防止に関する分野
 
 利用教材・資料
DVD教材
 
 
「キャッシュレス決済のお品書き」,「東京☆SDGs☆学園☆」
「パピ君と学ぶ!キャッシュレス社会の歩き方」
「ホントに“いいね!”?その契約」
購入物 マグネットボード、色鉛筆、短冊Mシート、シナリオ集
 
 指導方法・指導内容
【実践1】 自分の生活における金銭管理の仕方を考える
 生活経験が少ない中学生が、これから未来に起こる生活を展望しながら、金銭管理を考える手段として、消費者庁、金融庁、消費者教育支援センターなどの資料や東京都消費生活総合センター提供のDVD教材を活用して学習した。生徒によって違うお金の使い方を教材資料から学び、今まで知らなかったお金の使い方やキャッシュレス社会の仕組みについて考えた。
 DVD教材の視聴では、安全や契約、情報、キャッスレス社会の歩み方、SDGsに関わる消費生活上の問題と課題に気づくことができた。視聴覚教材を通して学ぶことによって、生徒は自分の生活をイメージしシュミレーションしやすくなった。経験したことがないお金の使い方について考える学習であっても、多くの気づきを発見し、自分たちの消費者としての行動が集まっていくことで社会や環境などに与える影響を知り、中学生も公正で持続可能な社会の発展を目指す社会の一員として行動できることを知れた。
【実践2】 自立した賢い消費者をめざした話し合い活動の実践
 安心・安全に関する問題、環境問題、悪質商法による被害や多重債務などの社会問題を知り、それらに対応する力を育むため、消費者の行動が社会、環境に与える影響を学び、金銭管理も含めたお金の使い方をシミュレーションした。消費者トラブルや環境問題などの社会問題に対応しながら、金銭を管理し、お金を有意義に使える消費者として意思決定の力を育むため、マグネットボードを使用して選択し、意見をまとめる手法を使いながら、ロールプレイングを活用した。修学旅行などの行事や長期休業日の生活、中学校卒業後に必要となるものなどを題材として、消費者として賢い選択をする力の育成をめざしたシミュレーションや模擬体験を実践した。環境に配慮した消費行動の仕方を考えたり、消費者トラブルを回避するための情報入手の仕方を考えたりすることができた。
 また、キャッシュレスの使い方など,時代の変化に対応した要素を取り入れることで、賢い消費者をめざした模擬体験を実践できた。どのようにお金を
保持し使っていくことが有益か考えることで、これまでと違ったお金の使い方の視点を養うこともめざし学習をすすめた。タブレットを使い各自の考えをまとめ、発表することで、考察を深めることができた。
 生徒や保護者の反応
 徳島市城西中学校は県内都市部に位置している。南に眉山を望み、北に吉野川の流れをいだく自然環境に恵まれた地域であるが、交通の便はよく県内外の商業地へのアクセスも容易である。就職や進学をきっかけとして親元を離れる生徒は多く、自立した消費者として、生活における金銭管理の仕方を考えることができる力の育成は重要である。
 授業前のアンケートでは,お金を使うときの消費行動に問題や課題があることを認識している生徒は90%を超えたが、具体的に問題や課題に対してどのように行動するかを明確に記述したり、個別の課題に対し、どのように行動したいか自己の主張を明確に述べることができるたりする生徒は少なかった。
 授業でまとめたプリントから思考の足跡をたどり確認すると、DVD教材や資料を活用・提示したことは学びには具体的なイメージがしやすいようで、多くの生徒が消費行動の問題や課題について具体的に自分の考えを述べることができた。実践後のまとめでは、生徒たちは、変わりゆく社会の流れを、毎日の生活から自然と学び、体験することができつつある。消費者教育では、キャッシュレス経済の特徴を知り、時や場面に応じ、現金・キャッシュレスを使い分けることが有益であること、現金とキャッシュレス決済を使い分けながら金銭管理する方法を考えなければいけないことに、多くの生徒が気づくことができた。アンケート結果によると、家族でお金の使い方を話し合う機会が増えたと答える生徒が80%を超えており、保護者も子どもに必要な消費者教育・金融教育を学ぶことの意義を感じているようだ。キャッシュレス決済など利便性に富むお金の使い方には、危険がつきまとうことを知った生徒たちは、ロールプレイングを通して、マグネットボードや色鉛筆を使い、意思決定の過程を視覚化して話し合うことで、消費者がお金を使う場面で考えるべきことを意見交換して整理することもできた。消費者トラブルの予防法を意見としてまとめ、自立した消費者として着実に成長することができた。上手な金銭管理の仕方を、生徒同士が意見交換し、各自の経験を語り合いながら共有していく姿は印象的だった。
 また、本研究において、生徒たちは、自立した消費者としてさらに成長することができた。授業後のアンケートでは、消費者教育・金融教育について興味をもった生徒は94%となり,授業前に比べ27ポイント上昇した。SDGsの考え方が定着し、エシカル消費などの取り組みが世間に浸透するなかで、電子マネーを使い、使用履歴をお小遣い帳として金銭管理をするなど、新しい感覚でお金と向き合う生徒も出ており、実践の中で、消費市民社会の一員としての自覚を持ち、未来を見通した金銭管理ができる力を育み、中学生が消費活動を共有できるこの取り組みを、今後も研究し続けたい。
    
過去の一覧へ