●令和4年度上板町立高志幼稚園活動内容
 ≪研究主題≫
  実感を伴う金銭のやりとりを日常的な活動に取り入れた金融教育
      〜ものや人・お金を大切にする子どもをめざして〜
 
 1 はじめに
   本園は農業・畜産業が盛んな地域で、同一敷地内には小学校があり、様々な活動をともに行っている。今、在園している幼児は、生まれてから約半分をコロナ禍で生活をしている。コロナ禍の影響で買い物に出かけることの減少や電子決済の加速化は、お金の認識やお金の価値観に大きな影響を与えていると考えられる。特に、店でスマホやカードをかざしてお金を支払うことが、幼児にとって当たり前の時代がやってきているのではないだろうか。そこで、金銭のやりとりをする活動や電子決済で物を買う体験を通して金銭感覚を養いながら、ものやお金を大切にする気持ちを育てるような取り組みを実践していきたい。
 
 2 研究のねらい




 私たちが生活をするためにはお金が必要で、「お金を稼ぐ」「お金を使う」「お金を貯める」「お金を借りる」「お金を貸す」などがある。学校も小さな社会であり、その社会の中で幼児が実際に働いてお金を稼ぎ、稼いだお金で必要な物を買うという体験を通して、お金のやりとりを知りお金や物を大切にしようとする気持ちを育む。
 

 
 
 
 




幼児の買い物体験が少ないという現状から、3段階の買い物の方法

   チケットと品物の交換
        ↓
   お金を使った買い物
        ↓ 
   電子決済での買い物

を行い、買い物の知識と金銭感覚を養うことで金銭教育の基礎を培う。
   
 3 活動計画
 
 実施時期 活 動 内 容
5〜7月
  
7〜9月
  
 
 
  
 10〜3月
 
  
  
 
 
10〜11月
  
4〜 3月
 
 
4〜 3月
夏野菜の苗の購入から栽培活動・販売活動への取り組み
 
お買い物ごっこ※
世界に1つの自分の財布を作る。

 
園内で模擬店を開き,幼児が遊びに使いたい物(色紙やテープなど)を日常的に模型のお金で買う。
    
電子決済ごっこ※
模型のお金からプリペイドカードを使っての電子決済での買い物に移行する。

 
限られたお金の中で,買える物を考えるとともに,持ち金の増減を実感し,年間を通して金銭感覚を養う。
小学校での購買活動へとつなげる。
 
夏野菜の収益金の使い方の話し合いと活動
 
資源ゴミ回収(年間)
保護者の協力を得て,参観日にゴミの分別と資源ゴミの回収を行う。
 
金融教育に関する研修会への参加
※事情により、長期期間でのお買い物ごっこ・電子決済ごっこは実施できず、短期間での活動となった。

 4 具体的実践
  
 チケットと品物の交換 〜野菜の販売体験〜
 コロナ前は自分が育てる夏野菜の苗を実際にホームセンターへ買い物に行っていたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、買い物に行くことができず、園内に模擬店を開き事前に購入していた野菜の苗を商品として並べ、幼児がチケットと交換で買う体験をすることにした。
夏野菜の購入と栽培 (5月〜7月)
幼児たちは「どの苗にしようかなあ。」「トマトの苗ください。」などと言って様々な夏野菜の苗の中から自分が育てたい夏野菜を楽しそうに選んでいる幼児の姿があった。苗はチケットと交換することで買うことができるため、幼児にもわかりやすかったようだ。苗はプランターや畑に植え、幼児が世話や収穫を行った。
 
野菜販売の準備と野菜販売 (6月〜7月)
幼児が収穫した野菜をどのようにするかを年長児で話し合い、保護者や年少児に販売することに決まった。当日の店の看板作りや多くの保護者に来店してもらうために、幼児が考え出演したPR動画野菜(CM)を作成し、保護者に配信した。開店当日には、収穫した野菜を袋詰めしたり野菜の種類ごとに並べたりした。コロナ禍のため、今までは、教師が店員になり野菜を販売することが多かったが、コロナ対策を取りながら年長児が店員となり、「どの野菜にしますか。」「50円になります。」などと言い、お客と直接やりとりをする機会も設けた。保護者が「CMを観て来た。」と言って夏野菜を買ってくれると、幼児はとても喜んでいた。また、実際に幼児が店員を経験し、お金のやりとりが楽しかったようで、その後の遊びでもレジを使ってお店屋さんごっこをする幼児が増えた。
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 お金を使った買い物
財布作り (11月)
2学期、夏野菜で稼いだお金を年長児が数え、その収益金をどのように使うかを話し合うと、「栽培したかぼちゃを使ったハロウィンのカップケーキを作る」ということに決まった。そこで、カップケーキ作りに必要な材料を買うという体験をさせたいと考えた。そして、買い物をする際には、まず財布が必要ということになり、幼児はフェルトを好きな形に切り貼ったり、ビーズやストーン等で飾りをつけたりして、世界に1つの財布を作った。
 
お金を使っての買い物ごっこ (11月)
園内と隣接する小学校に、カップケーキ作りに必要な材料を売るための店3店舗を開店した。幼児は自分で作った財布の中に、お金を入れてもらい、年少児と年長児がグループになって買い物に出かけた。3店舗のお店を回り、友達と相談しながら品物を選んでいる幼児や、違った物を買ってお金が足りなくなった幼児もいた。レジでは、幼児自身がお金の種類やお金の枚数を確認しながら、支払いを行った。幼児は買い物体験から買い物の仕方を学び、お金の価値が少しわかったようだ。保護者からは「買い物に出かける機会が少なくなった中、園内で買い物体験をさせてもらい、幼児は楽しかったようで帰宅後すぐに話をしてくれた。」と笑顔で伝えてくれた。
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 電子決済での買い物体験 〜プリペイドカードを使って買い物ごっこ〜
お小遣い (12月)
幼児は草抜きや掃除等をするとお小遣いとして模型のお金をもらい、財布の中にお金を貯めていった。1学期に行った野菜販売では「野菜とお金」のやりとりを学び、今回の活動では、「目に見えない労働でお金を得ること」を体験した。一人一人の幼児が働いてお金を得ることで、お金の大切さに気付いたとともに、財布の中にお金が少しずつ貯まっていく喜びも感じていた。
 
プリペイドカードを使っての買い物ごっこ (12月)
幼児の身近な買い物でも、保護者はキャッシュレスを利用することが多くなり、幼児にとって「見えないお金」が金銭感覚を乏しくさせていると感じる。そこで、プリペイド型の電子決済の仕組みを体験させる買い物ごっこを行うこととした。模擬店は、6店(お菓子屋さん・色画用紙折り紙屋さん・クリスマスツリー屋さんなど)で、幼児が購入した物を遊びの中で使ったり、食べたりすることができるような店とし、開店をした。活動は次のように行った。

 
幼児全員が定額のお金をプリペイドカードにチャージをする。

 
 
チャージしたプリペイドカードを使って、自分にとって必要な物を選び購入することで、お金が減っていくことを体験する。また、チャージしている以上の金額の品物は購入することができないということを知る。

 
働いてもらったお小遣いを再びチャージすると、お金が増え、また買い物ができることを体験する。

初めは、チャージをしたプリペイドカードを使って買い物をすることが楽しく、残高不足になり品物が買えない幼児もいた。しかし、再度、チャージをして買い物をする時には、パソコンで残高を確認しながら買い物をする幼児や品物の値札を見ながら買う幼児がほとんどであった。また、複数の品物を買った幼児は、「お金で計算がなかなかできないので、カードでの買い物が簡単。」と言っていた。
今回の活動を通して、チャージしている以上の金額は使えず、「有限である」という概念をもたせることができた。カードは、いくらでも買い物ができる魔法のカードではなく、「あらかじめお金を預けている」という金銭感覚を幼児たちにもたせるためには、今後の手法を変え、回数を重ねて実施していくことが必要であると思った。
 5 小学校との連携
  隣接する小学校も地域の特性を活かした体験活動を中心に学習を進めており、小学校の活動を参考にしながら、幼稚園の活動を計画・実践している。このように幼稚園と小学校が連携して活動をするようになり、保護者から「幼稚園での経験が小学校で活かされている。」という声が聞かれるようになった。幼稚園で行っている野菜栽培・収穫・販売の活動は、小学校では「労働とお金の関係を知り、家族への感謝の気持ちを育てる」キャリア教育へとつながっている。また、幼稚園の活動で培われてきたお金やものや人を大切にする心は、小学校でのSDGsの活動やエシカル教育の基礎となっているため、今後も引き続き小学校との連携を継続し、実践していきたい。

 6 おわりに
 当初の計画では、年間を通して幼児が限られたお金(お小遣い)の中で園内のお店(購買)で遊びに必要な物を買い、金銭感覚を養う予定であった。しかし、コロナ禍でできない活動もあり、今回の3段階の買い物体験を行うように変更した。幼児が硬貨を持って買い物に行く機会が減っている今、小学校での算数の基礎部分を担う幼稚園での金融教育は、「ごっこ遊び」の中で、現代の社会状況に適応した内容に広げていけたらと考えている。
   
  
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