●平成22年度小松島市新開幼稚園活動内容(抜粋)
 
 研究主題 『もったいない』という気持ちを育てる金銭教育への学び
     〜一人ひとりが心豊かにできる保育をめざして〜
 
 T はじめに
 昨年度、第30回徳島県就学前人権教育研究大会公開保育園として発表をさせていただいた。研究主題『人権尊重の社会の実現を図るため、差別の現実から深く学び、すべての子どもの自立と自己実現をめざす保育・教育を確立しよう』−すべての子どもの人権を大切にする日々の保育・教育内容を創造しよう−3年間の歩みであった。
 子どもの人権を保障する面から、発達の過程で一人ひとりの人権(育つ権利)が大切にされるように、保育・教育内容を実践してきた。
 引き続き今年度は、徳島県金銭教育研究園として2年間の指定研究お引き受けすることになった。保育内容そのものが、本園にとって人権教育であり金銭教育であった。一人ひとりが心豊かにできる保育をめざして、『もったいない』という気持ちを育てる金銭教育への学び、そのために必要な手だてが何であるかについて、実践を通して研究主題に迫っていきたい。
 
 U 研究主題・副主題設定の理由
 近年保護者は賃貸マンションで暮らすより、建て売り住宅(持ち家)・核家族化を求める方が多い。家賃を支払う思いをすればと、マイホームを購入し、衣・食・住居費を節約したり、教育費用や玩具等を保護者同士で回し合ったりして、生活を切り詰める様子が伺える。
 また、保護者自身の勤労体験が少なく生活の中で汗を流したり、働いたりすることが出来にくい傾向にある。折角手に入れた新築の家を幼児に汚されたり、衣服を汚して遊んだりすることを嫌がる保護者も見受けられる。
 毎年、園で幼児が育てた野菜を保護者と一緒に収穫体験をし、その後、幼児たちで販売すると、わが子が育てた野菜を微笑ましく買ってくださる保護者と、「祖父母からいただくので、もったいないから買わない」という保護者もある。
 販売の趣旨は前もって保護者に知らせ、幼児たちで育てた野菜を準備し販売するが、買ってくれない幼児の表情はがっかりしている。
 100円ショップやインターネットからの購入、幼稚園や小学校のバザー等で、商品を安く購入できるので、保護者の財布の紐は堅くなりつつある。物=安価なものという考え方だけが先行すると、幼児の思いや心が大人の感性で傷つけられてしまうこともあると思われる。そこで研究主題を、『もったいない』という気持ちを育てる金銭教育への学び、一人ひとりが心豊かにできる保育をめざして、と決めて日々の保育を丁寧に見つめ直すことにした。
 
 本研究では(1)〜(6)の観点も含めながら、実践を抜粋しその結果をまとめた。
(1)
 
 
 
小規模園なので、遠足(親子遠足)などは、貸し切りバスの利用を出来るだけ避け、親子徒歩遠足・路線バス・汽車等の乗り物を利用することで、自分たちのために働いてくれる人がいることや、お金がないと目的地まで行けないことがわかるようにする。また、疲れていても頑張ろうとする気持ちを育てることにつながるようにしている。
(2)
 
みんなで育てた野菜を調理して食べたり、食べ物を大切にする気持ちを育てたり、実際にお金を使い売り買いをすることで、物やお金の大切さが分かるようにする。
(3)
 
人とのかかわりを通して、「ありがとう」、「お世話になりました」等、感謝の気持ちを表現できる体験活動を取り入れ、豊かな心を育てる。
(4)
 
ベルマークを集める活動を通して、保護者や地域の人たちの協力を得て、園の遊び用具や教材があることを知らせ、感謝の気持ちやものを大切にする心を育てる。
(5)
 
100円ショップ等で安価な色紙を購入し、園に持参して使っているが、失敗するとすぐに捨ててしまう傾向にある。
(6)
 
誕生会のおやつを、ロバのパンやさんで、幼児が欲しいパンを選択し、買うようにしている。こうした体験が人とのコミュニケーションにつながっている。
 
 V 研究の方法
(1)金銭教育実践研究計画 
(2)基本的生活習慣の育成 
 
 1 身の回りの始末、挨拶、食事のマナー等を身につける
 2 金銭教育のアンケート実施
(3)遊びの中で「もったいない」体験 
 1 園外保育の中で、徒歩や路線バスや汽車を利用して豊かな遊びを体験
 2 「もったいないばあさん音頭」で広げる金銭教育
(4)勤労体験 
 1 食育活動:種まきをして、収穫したものを食べる
 2 収穫物の販売(豆、たまねぎ、大根)
(5)お金を使う体験 
 1 お店屋さんごっこで模倣体験をしたり、園児が得たお金でお店屋へおやつを買いに行たりする
 2 レストラン体験
(6)地域社会との連携 
 1 陶芸貯金箱作り
 2 徳島県消費者情報センターの講演会 
 3 異文化金銭教育の講演会 
 4 信用金庫見学 
 5 未就園児園開放
(7)家庭や小学校との連携 
 1 ベルマーク活動、お金や物を大切にすることを保護者や小学校教師に報告し啓発をはかる
遊びの中で、「もったいない」体験
「もったいないばあさん音頭」で広げる金銭教育
 「もったいないことしてないかい」−平成22年6月11日〜9月26日
 夏の夕涼み会で、『もったいないばあさん音頭』を踊ることをとおして、幼児や保護者、地域の方々に金銭教育の大切さを知らせるようにした。
 歌詞の中には「お皿の上の食べ残し、茶碗についたご飯つぶ」、「じゃあじゃあお水の出しっぱなし」、「紙を丸めてポイポイポイ」等、もったいないことの一例が並べられ、そのようなもったいないことをしていると、もったいないばあさんが、注意しにやってくるというのだ。幼児もこの踊りを気に入り歌詞も口ずさむようになった。
 数日後、水道栓の締め忘れにより、蛇口から水がちょろちょろと出ていた。するとそれを見つけた幼児が、「じゃあじゃあ、お水の出しっぱなし〜」と歌いながら水を止め、「こんなんしとったら、もったいないばあさん来るんじょ」と言った。
 また、お弁当を「もう食べれん」と残そうとする幼児がいると、「もったいないばあさんが家に怒りに来るけん食べなあかんよ」と、もったいないことをしようとする度に、もったいないばあさんの名前が出るようになった。
 製作で糊が机に付かないようにと使った広告紙を、ゴミ箱に入れるように教師が言った。するとP児が「先生もったいないよ」と言った。糊がついた広告紙がなぜもったいないのかと思っていると、「あたし、きれいに使ったけん糊ついてないよ、そうだ、これで何か作ろう」と広告紙で箱を折り始めた。
 折った箱に画用紙の端きれで持ち手をつけると、かわいいかごが完成した。それを見たR児も、真似をして同じようにかごを作り始めた。
 幼児たちが『もったいない』の意味を理解し始めてきたので、保護者に協力を得て『もったいないばあさん音頭』を運動会の親子ダンスで踊った。
 保護者からは「子どもに、出しっぱなしにしとったらもったいないって言われますね」、「子どもがもったいないってよく言うようになったから、私も考えるようになりました」などの声が聞かれるようになった。
≪反省・考察≫
 『もったいない』という言葉の意味を集会の時に、園児全体で話し合うと、年長児のN児とH児が「大事にすること」と答えた。もったいないという言葉は、家庭では、食べ物によく使っていることが、幼児の話し合いの中で分かった。もったいないばあさん音頭がきっかけで、最初は歌詞の中に出てくるもったいないに気付き、友達や周囲に教える事ができるようになった。そして、どんなことがもったいないのかを自ら考え、できるものは再利用することを考えるようになった。
 また、歌からの影響は大きく、家庭でもどんなことがもったいないのかを改めて考えるきっかけづくりとなった。
地域社会との連携
徳島県消費者情報センターの講演会
7月22日、徳島県消費者協会より講師を招き、PTA金銭教育の研修会を行った。
演題「危ない!親子ではまる落とし穴」
 今の社会では、知らないことで色々な物を買わされたりします。幼い時から、何でも子どもの言いなりに、物を与えていると、大人になるとブレーキがききませんね。大切なものとは何でしょうか?幼い時から何でも買い与えているとどうなるか。我慢知らずに育ち、独立心や自立心が育たない。

 
            <消費者情報センター講演会のアンケート>
(1)徳島県消費者情報センターを知っていましたか。
 A 知っていた 50%
 B 知らなかった 44%
 C その他 6%
(2)本日の研修会は分かりやすかったですか。
 A 分かりやすかった 75%
 B まあまあである 19%
 C 分かりにくい 6%
(3)本日のお話を聞き、金銭教育は子どもが小さいときから、教えた方がいいと思いますか。
 A 教えた方がよい 94%
 B どちらでもよい  
 C 教えなくて良い  
(4)本日の感想も含めてお書きいただければ有難いです。

 
 
自分自身で物事の善悪を判断できるしっかりした子どもに育ってくれることが願いです。(特に金銭に関しては親子間で約束を守ること、我慢することの大切さを、きっちりと教えていただきたいと思いました。)

 
子どもの時からお金に関する教育をしていかないと、大変なことになると思いました。お金の大切さを子どもにわかって欲しいです。
≪反省・考察≫
 困ったときに、公的機関に相談するなど意外と知らない保護者の多いことに驚いた。消費者情報センターの講演を聞き、保護者の見聞が広がり、聞いて良かったという保護者が、幼児期からの金銭教育の必要性を感じていた。
 
 W まとめと今後の課題
(1)
 
 
 
 
 
 
遠足や園外保育を貸し切りバスや汽車や路線バスを利用していた。本園から徳島や阿南へは汽車で15分〜25分程度で行くことができる。今年は汽車・バス・バスと3回の乗り継ぎで、目的地の文化の森まで行った。時刻まで汽車やバスを待ったり、運賃を一人ひとりの幼児が支払ったりの体験であった。
家庭であれば車ですぐ目的地に行ける距離である。待つことの大切さ、我慢が出来なければ集団行動も出来ないことを、体験を通して感じ、時間をかけて到着した喜びは幼児の生きる力の地盤となった。
(2)
 
 
 
 
 
栽培活動では、玉ねぎ、グリーンピース、トマト、さつま芋、大根と四季折々の野菜作りの中で、収穫した野菜を利用した、味噌汁、おにぎり、カレー、ピザ、焼き芋、おでん等を、みんなで一緒に食べた。幼児たちは「ようちえんで、作ったものめっちゃおいしい。ぼく、味噌汁ごかいもお代わりしたよ」と喜ぶF児。
1月のじゃがいも種の植え付けでは、希望の保護者にも手伝っていただき、労働体験したことで、幼児や保護者が共に、働くことに感謝する気持ちへと育っていくことを願っている。
(3)
 
 
 
外国の保護者がおり、英語ではなくロシア語なので保護者はどうしても言葉の壁があり関わりにくかった。しかし、3年前から徳島県国際交流協会と小松島市国際交流協会からのお力を借りて、外国での金銭教育の在り方などの講演もして戴き、外国の方が身近な存在となり保護者間で外国の料理を作り交流している。
 X おわりに
 昨年まで人権教育研究園として、研究を積み重ねたうえに金銭教育を進めてきた。豊かな体験活動を通して、保護者や地域の方々の協力をして戴きながら園運営をしてきた。
 園で収穫した野菜を売り、その収益金で遠足のおやつを買ったり、100円で買える物等幼児同士で相談をしお店でお金を使い、物を買えることを体験し、お金の流通のしくみを感じ取っている。しかし、保護者は、「家で子どもにお金を持たせることはまだ早い」、「お金の大切さが分からないから与えない」という考えの方が多い。
 幼児に生活のなかで「節約」、「がまん」、「もったいない」と一言で片付けるのは簡単ですが、実践の中で、汗を流したり、待ったり、目的を達成する体験をすることで、教師も幼児と共に感動し、勤労やお金の大切さに気づき、保護者にもその感動を丁寧に伝えていくことが園に求められている。
 
   
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